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第3話 -14
――放課後、いつものように市倉が運転する車の後部座席に乗り込み、寝転がる。
腰が重だるい。悟志はあれから何回もイかされ、午後の授業には出られなかった。見つからないように屋上の踊り場に置いたままの本と弁当箱を取りに行き、教室に戻り荷物を持ちそのまま車へ。担任には明日の朝にでも言えばいい。家のことで自分相手に怯える教師を黙らせるなんて簡単なことだ。
全身から時雨の匂いが消えない。悟志は横になったまま、市倉に声をかけた。
「帰ったら先に風呂に入りたい。親父に説明頼んだ」
「……その匂い、気のせいじゃありませんでしたか」
「俺と親父のことを知ってた。兄が組に入ってる奴らしい。黙らせるための交換条件みたいなものだったから」
「弱みになりかねない行動はとらない方がいいですよ。まぁ終わった後に言っても無駄でしょうけど」
言われるとは思ったが、小言を零される。赤信号で止まった車内で、悟志は聞こえるかもわからない声で呟いた。
「あの人に触られるよりも、嫌じゃなかった」
「……愛されることを知らなかっただけで、その感情はただの錯覚ですよ」
あれは愛ではなく、ただの執着だ。市倉はそれだけは口にせず車を走らせる。
学校にいる間は夢で、家に帰れば現実が待っている。悟志は、膝を抱え丸くなった。
***
サッカー部の部室で、時雨は本を読んでいた。部員達は練習に出ているが、時雨は共には行かない。
膝を痛めたのは一週間ほど前の話だ。日常生活には支障ないが、運動は難しい。暫くの間練習に参加できない代わり、マネージャーがいないサッカー部の雑用を一手に引き受けた。今は洗濯が終わるのを待っているだけ。
図書館に行こうと思ったのは偶然だった。足を痛め何もできない。ならば本でも読もうかと思い出かけ、悟志と遭遇した。
元から、悟志のことは気になっていた。端正な顔立ちに栗色の髪。一年中肌を見せようとしないその長袖の下がどうなっているのか。いつも眠そうで、外をぼんやり眺めている表情が歪んだらどう変わるか。兄が九条組に入ったのは偶然だが、悟志が父親に性的虐待を受けていると知って、残酷だがチャンスだと思った。
男を好きになったのは悟志相手が初めてだ。後輩を喰ったのは、関わりを持たせてくれない彼への持て余す劣情と性欲を満たし、男相手にどう抱けば悦ぶのかの練習のため。
だから、一年以上ずっと見ていたそれが漸く手に入りそうになり、我慢ができなかった。もう少し泳がせて、こちらに好意を抱かせてからにしたかったのに。
それでも、あれは嫌そうではなかった。口では強気な発言ばかり繰り返していたが、別れ際またしたいと言った言葉に拒否をされなかったのが一番の証拠。
ガラリと、扉が乱雑に開かれる。そちらを向けば、そこにいたのは幽霊部員。
「お前、俺のに何してくれてんの」
「あー、此処にいるのバレちゃった」
「さとに何してくれてんのって言ってんの。手だけは出すなって言ったよな」
普段の可愛らしい笑顔は片鱗もない。近くに乱雑に放置されていた椅子を蹴り飛ばし、鋭い視線で時雨をきつく睨みつけた。
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