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第4話 -1

 仕事が忙しいのはわかるが、名前だけは何処かの部活に置いておけと言われた光はサッカー部に入部していた。幽霊部員なのは1年生の頃からずっとそう。時雨とはサッカー部と、モデルという共通点があり仲良くなった。  悟志と幼馴染だなんて言わなければよかった。時雨が悟志に興味を示していたことは知っていて、自分の幼馴染が誰かに好かれるのが嬉しいから思わず教えてしまった。  まさか、その興味が級友に対してのものでないとは思わなかった。  光は、本を手にさも余裕そうに笑っている時雨を睨む。ただ、その睨みは時雨には通用しないようで鼻で笑い飛ばされた。 「手を出すなって、殴るなって意味じゃなくて? それにあいつ俺のちんこ咥え込んで離してくれなかったけど、何処がお前のものなわけ?」 「ずっとあの子は俺のことしか見てなかったのに、ぽっと出の奴が奪うなんて許さない。さとは俺のだ。もう二度と手ぇ出すなよ」 「無理かな、あんな可愛いのに独り占めなんて狡くない?」  悟志の前での猫を被ったものも、今の態度もどちらも本性。ただ、悟志が好きな自分は可愛く愛らしい光。だから、こちらは見せないようにしているだけだ。  可愛いからこそ独り占めしたくなる。そんな簡単なことがわからない程浅い付き合いでもないだろうに。 「何年も手ぇ出さないで我慢してたのに、お前みたいなのがぶち壊すなよ」 「よく我慢できるね、俺なら無理。抱いたこともないのに偉そうにすんなって、こういうのは早い者勝ちだろ」  そう言われてしまうと普通なら頷くしかない。ただ、相手は悟志だ。光にとって唯一無二の存在で、誰よりも他者からの愛情に弱い人。全てを諦め義理の父親に虐待を受けていることを受け入れてしまっている子。  あの子を救えるのは自分だけ、愛するのは自分だけ、そう思われていたかった。名前を憶えられてからたった数日の男に抱かれて愛を知るなんて、そんな馬鹿げた話受け入れてなるものか。  それでも、今はまだ悟志相手に性欲を見せるわけにはいかない。自分を好きなのは明らかだが、抱いてしまえば悟志の中の光のイメージを壊してしまう。  あと一年かけて、卒業までに少しずつイメージを変えていこうと思っていた。だが、時雨に取られてしまうかもしれないのなら、少し早めるか。  意に介さない様子の時雨にこれ以上何を言っても無駄だ。光は溜息を吐き、扉へ向かう。 「友達としては別にいい奴だから縁を切るとかはしないけど、絶対にさとだけは渡さないから。それだけは譲れないし、絶対に譲らない」 「別にいいよー、俺はまだセフレくらいで丁度いいかなって感じだし」 「人のもの抱こうとすんなよ。さとがどれだけ俺のこと好きか見てわかるだろ」 「勘違いしてるみたいだけど、あれはお前のものでもないでしょ。父親のものだよ」 「……わかってんだよ、そんなこと」  あの父親から奪い取るため、一体どれほどの時間と労力をかけてきたか。  高校卒業と共に自分は芸能界を辞める。そうしたら、悟志を連れて何処か遠くへ逃げるのだ。小さい頃からずっと考えていたこと。友人に邪魔されたくらいで頓挫させたりはしない。

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