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第4話 -5

 どろりと溢れてくる苦味。腕を掴み抑えていた手はいつの間にか離され、頰を撫でられる。それを一滴も残さないと吸い出し、膝の上に座る。出せと掌を目の前に出されるも、悟志はそのまま飲み込み舌を出してみせた。 「飲んだ。偉い?」 「偉くないし、そんな不味いの飲まないでください。本当に、俺が殺されたらあんたどうするつもりなんですか……」 「絶対、誰にも言わない。もう勃ってないな?」  触れる前と同じように垂れ下がったそれを指先で撫でる。それを、また市倉は腕を掴み止めてきた。 「40代と10代の性欲一緒にしないでください。勃ってたらどうするつもりだったんだよ」 「抱けって命令してた。身体洗うか?」 「風呂入っててください。今のは今回限りで忘れるので」 「嫌だ。忘れるのも駄目」 「忘れます。もう忘れました、降りてください」 「忘れたならまたする」 「こら」  まだ愛されていると思うには弱過ぎる。達しただけじゃ足りない。抱かれて初めて実感できる。 悟志は、自分を下ろそうとしてくるそれに抱きついた。 「牡丹なら、俺が安らげる場所になってほしい」 「……いつも、できる限りはお守りしてますよ」  そんなの知っている。でも、今欲しいのはその言葉でも世話係としての愛でもない。 「ちゃんと男同士は普通はどんなことするのか調べた。腹の中綺麗にするんだろ、自分でするから、だから市倉」 「……俺が女好きかもしれないってのは考えないんですね」 「目瞑ってていい。俺が頑張って動くから、あいつとは違うってこと教えてくれるだけでいい」  父に抱かれ、身体が弛緩するのも市倉は知っている。世話係は悟志が寝るまでが仕事時間。毎夜父と交わっているその部屋のすぐ外で、全てを聞かれている。物好きな父によって障子を全て開けられた状態で抱かれ、一度見られたことだってあるから。  悟志の縋る声に、市倉はその身体を引き寄せ自分に寄りかからせた。 「どうせ動けなくなるのがオチなのはわかってます。俺が全部やるから、声は出さないようにしてくださいね」  外に聞こえたら、抱かれていることが知られてしまう。背中から徐々に降りてくる指に、もう親子のような関係には戻れない恐怖と、背徳感から来る胸の高鳴りを抑えることができなかった。

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