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第4話 -9

 逆上せた身体を丁寧に拭かれ、パジャマの浴衣を着させられる。髪も乾かしスーツを着た市倉は、何事もなかったかのような表情で証拠隠滅をしてから悟志を抱き上げ廊下に出た。  ついさっきまで抱いていたなんて露ほども顔に出さない。もし万が一誰に見られても大丈夫なよう、悟志の顔はタオルで隠された。  自室まで運ばれ、布団の上に下ろされ火照った頬を撫でられる。一緒に風呂に入っていたのに冷たい手にすりと頬擦りすると、水を持ってきますと市倉はすぐに出て行ってしまった。  まだ外は明るく、母屋にはまだ皆がいるのに市倉相手に情欲を止められなくなかった。これまでずっとそんな目で見てほしくなかった相手なのに、どうしても抱いてほしくなってしまった。  ずっと子供として愛されていることはわかっていた。それでも、他人が一心に与えてくる愛に、少しだけ不安だったそれが膨れ上がり求めてしまった。  キスをできるか聞いたのは、できないと言われればそれでやめられると思ったから。できないならただの保護者としてしか見られない。でも理由こそ少し意図は違っていたものの、できると言われてしまったから。  市倉はずっと護衛として、世話係として隣にいてくれたのに。それなのに、それ以上を求めてしまった罪悪感から枕に顔を埋める。 「大丈夫ですか?」  買い置きのペットボトルを持ってきた市倉は、枕元に座り心配そうに聞いてくる。目の前の膝に触れ、悟志はふるふると首を振った。  逆上せて今は満足に起き上がることもできない。水が飲みたいと手を伸ばしたその手を、市倉は引き寄せ上体を起こさせた。  背を預ける形で市倉に寄りかかる。先程までと同じ姿勢でも、先程とは漂わせる雰囲気が全く違う。目の前でキャップを開け、子供相手のように口許に運ばれるそれを大人しく飲んだ。  少しずつ嚥下し、もういいと思ったタイミングで離される。キャップを閉めた市倉は、水で濡れた唇をタオルで拭いた。 「こういうところは、昔から変わりませんね」  幼い子供相手にしているのと全く変わらない態度に、少しだけむっとしてしまうが、その変わらなさに安心もできる。枕元に置いたままの多くの荷物の中から扇子を取り、熱を冷ますように扇がれた。 「今日の夕飯はどうしますか。もし怠いようなら俺が準備しますよ」 「要らない。……市倉、悪かった」 「今日だけですよ、もうしないから」 「それでいい。あんなに太いのもう入らない」 「……それ、煽ってるんじゃなくて素で言ってるのタチ悪すぎだろ。こんなおっさん誘ってないで、可愛い彼女でも作ってくださいね」  好きでもないのに、父以外にまで抱かれる意味はない。だから、こんなことはもうせずに女性とでも付き合って愛し合えばいい。  それはきっともう無理だ。ずっと男相手に身体を好きにさせて、今更女性とどうこうできると思えない。それでも、幼い頃からずっと自分を見てきた市倉が望む言葉に、それは言わずに小さく頷いた。

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