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第5話 -3

 光の連絡に、なんとか返信を返し一息。  悟志は、本当に風邪をひいてしまっていた。  いらないと言ったのに粥を作ってきた澤谷は、悟志が携帯を置くなり浴衣を剥ぎ体温計で熱を測らせる。冷却ジェルシートを新しく買ってきたのか、額に貼られた状態で、じっと自分の隣で熱が測り終わるまで座っている澤谷を見上げた。 「さっき測ったから十分だろ」 「いえ、1時間ごとに確認した方がいいです」 「……別にそれはいいとして、脱がせる必要はないよな」 「だって悟志さん嫌がるじゃないですか」 「だからってこんな、…………もういい」  何を言ったって使命感に熱いこの犬は聞きやしないだろう。市倉に頼まれたからか、それとも組長のな息子だからか、ふんすと鼻息荒く看病をしてくるそれが悟志本人の話を聞くわけがない。  抗議を諦めた悟志は、市倉について聞き出すためにそれとなく話を振った。 「お前、普段は何してるんだ」 「地回りですね」 「それがなんで此処にいるんだ」 「兄貴から直接悟志さんを頼むって言われたんで。お勤めしたことねえ世話係って話だったから何処ぞのチンピラと同じかと思ったんですけど、あの人肝座ってますわ。感心しました」 「エンコでも詰めに行ったか」  肝が座っている、それに感心されるようなことが休暇に行く市倉に対しての評価? おかしい。悟志はそれを聞き出すため、冗談を口にする。  澤谷は、驚いた表情で悟志を見下ろした。 「なんでわかったんですか?」  それは、肯定の意。そんなことをさせてしまった、悟志は言葉を失う。  秘密だと言われていたのだろう、澤谷は慌てたように言葉を濁し始める。その胸倉に、悟志は掴みかかった。 「親父がやれって言ったのか。なんで止めなかった」 「ちが、違います、兄貴は自分で」 「親父はこのことは」 「知らないと思います。休みをとるとだけ伝えろと言われたんで」 「……やるのは今日か?」 「だと、思います」  なら、止めに行くしかない。悟志は浴衣の合わせを正すことなく、重く怠い身体で立ち上がる。頭まで重い、すぐに横になって眠ってしまいたい。  それでも、きっと自分のせいだから。悟志は障子を開け、外に出るため足を踏み出し、そしてその場に崩れ落ちた。  澤谷によって抱えられ、引きずられるように布団に戻される。それでも何度も這いずり出ようとし、その度に止められた。 「悟志さん、駄目です。体調が良くなるまで部屋からは出しません」 「俺のせい……」 「あの人の彫り物も指も、あの人がケジメとして自分で勝手にやることです。だから駄目だ」 「俺のせい、なのに」  指詰めの強要は犯罪でも、自ら行うならそうではない。ただの自己責任の域。  それでも、原因が自分なのに此処で寝ていることしかできないなんて嫌だ。  澤谷は熱を測り直させ、上がっていることを確認すると小さく息を吐いた。 「お粥、食べてください。兄貴が帰ってくるのは3日後なんで、それまでに治しておかないと俺が怒られます」 「……いらない」 「駄目です。手伝いますから」  そんなの、市倉じゃないからいらない。

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