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第5話 -6

 悟志を一人にしてはいけない。澤谷が帰って来るまで部屋から出るわけにはいかないが、早くトイレに行きたいし、この姿を悟志以外には見られたくない。それに、目の前で眠っている悟志は身体に触れてしまったせいで夢を見始めてしまったのか小さく嬌声を溢しながら自らの指の節を噛み膝を擦り合わせている。これを、自分以外の誰かが見るのは駄目だ。  艶やかな表情はずっと見ていたいが、いつ戻って来るかもわからない。光は怒られる覚悟も決め、態とらしく悟志の腹の上にのしかかった。 「どーん!」 「っ」 「さと、さーと、起きてー」 「……光?」  まだ少し寝惚けた様子だ。悟志は光の姿を確認し、首を傾げる。夢かと思われては叶わない、光はにっこりと笑い、唇の端から零れていた唾液を乾いている親指で拭った。 「お昼にずっと寝てたら、学校来れなくなっちゃうよ」 「なんで、家に」 「来ちゃった。っていうかさっきも起きた時に言ったじゃん、覚えてない?」 「……夢じゃなかったのか」  腹の上から光を退かせ、ずれた合わせを整える。溜息を吐くそれは艶を隠せていない。駄目だ、普通に会話でもして宥められればいいと思っていたが、一挙手一投足で益々元気になってしまう。  朝勃ちと同じだと思っているのだろう、光との接触で勃ってしまったそれを布団で隠しているそれに、悪魔的な考えが過る。  擦り合いなら、丸め込めばできるかもしれない。一般的な高校生の友人がいない悟志相手なら、これくらい普通だと言ってしまえばきっとできる。  がばりと布団を捲り、それに視線を向ける。悟志は珍しく慌てたようで手を伸ばして隠していたが、それの耳元で囁いた。 「さと、えっちしたいの?」 「違う、生理現象だから」 「起きたばっかだもんねー。えっちな夢見ちゃった?」 「……違う」  事実なのに、違うと言い張り逃げようとするそれがまた可愛い。自分とそんなことをするなんて考えたこともない様子に、光は他の男に喰われてしまったことを思い出し少し苛立つ。他の男とはセックスするのに、自分相手には夢を見たことすら隠したいのか。  光は、また布団を被ろうとしたそれを手で制した。 「ね、擦り合いっこしよ。あの人戻ってくるまでにそれどうにかしないといけないでしょ」 「なんで、そんなこと」 「仲いい友達とはしてもいいって皆修学旅行とかで言ってたもん。でも俺はさとしか見せていいって思えるくらい仲いい友達いないし、さとだってこんなに張ってるのそのままにするの辛いでしょ」 「……」  あからさまに怪しむ視線に、光はもう一押しと抱き着くように自分の身体をぴたりと押し付けた。  顔と体型に合わないサイズのそれがゴリゴリと悟志の腕に触れる。息を飲んだ悟志の様子に、光は内股を撫でてやりながら頬にくちづけた。 「ね、したい」 「……一回だけだからな」  一回でもいい。抱けなくても、好きな相手と疑似体験をしたという事実を深く意識に刻みつけられれば。

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