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第2話

 ぞんざいな扱いをしてはいるが、この男と付き合ってもうすぐで一年になる。 「そうだ、あれでいいですよ。先輩にリボン結んで」 「冗談じゃない! ふざけるな!」 「えー、じゃあ、普通にチョコレートでいいです。俺のために買ってきてください」 「コンビニチョコでいいな」 「んー、せめて包装されたやつにしてくださいね。大譲歩です」  少しつまらなそうな顔をする男に俺の顔はますますしかめっ面になる。なんでこの俺がチョコなんぞ買わなければならないんだ。けれどそう思うものの日頃の感謝をしろと言われると、唸らずにはいられない。  結局、弁当は捨てるわけにも行かないので渋々会社に持っていった。自分のデスクで食べれば覗きに来るやつもいないだろうと諦めることにしたのだ。それでもなんで今日は弁当なのだと突っ込まれはした。答えるのが面倒なので曖昧な笑いだけを返したけれど。 「水地主任、島沢商事の鴻上(こうがみ)さんがいらっしゃいました」 「……ああ、いま行く」  ため息を吐きながらパソコンを叩いていたら、ふいに事務の子から内線がかかってきた。電話口から聞こえた名前に少しうんざりした気持ちになってしまう。いまこのタイミングで会いたくなかったな。  なんで今日この時間に約束したんだったっけ。ああ、そういや向こうから時間指定してきたんだった。心の中でぶつくさ言いながら応接室に向かう。 「あ、水地先輩。お昼おいしかったですか?」  部屋の扉を開いた途端、俺の顔を見た男がにんまりと笑みを浮かべた。至極見覚えのあるその顔は取引先の営業、兼同居人の鴻上理一(りいち)。  この男が俺を先輩と呼ぶのは会社の先輩後輩ではなく、高校時代の先輩後輩だから。再会をしたのは三年前。この男が新人営業として会社にやって来た時だ。 「飯は普通にうまかったよ」 「不服そうですね」 「大いに不服だっつーの」 「おいしいならいいじゃないですか。あ、はいこれ。渡し忘れていたチョコブラウニー。おやつにしてください」  鞄を漁った鴻上は小さなラッピングボックスに入ったものをテーブルに滑らせてくる。見るからにバレンタイン仕様のそれに顔がひきつった。
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