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第5話

 学生時代など義理でもチョコを一つもらうだけで喜んでる級友はいた。おそらくステータスに似たものがあるのかもしれない。  思えば昔からそういうのが面倒くさかったから、本命だろうが義理だろうがチョコはずっと突っぱねてきた。なので生まれてこの方バレンタインにチョコをもらったことがない。鴻上が寄こしたのもケーキだからチョコには含まれないだろう。  しかしあいつなら黙っていてもチョコはいくらでももらえるだろうに。俺なんかがわざわざ買わなくたって。 「ん? そういえばあいつからバレンタインがどうとか、いままで聞いたことないな」  あ、そうだ。そういえばそもそもあいつゲイなんだよな。女からのチョコレートなんて端から興味がないのか。  まあ、とはいえ仕事中にそういう浮ついた話をするようなやつでもなかったか。だから信用しているところがあるわけだし。  いまでこそ二人の時は気安く話しかけてくるが、基本仕事中は真面目を絵に描いたやつだった。 「ただいま」 「おかえりなさい。早かったですね」  家に帰り着くと部屋には電気が灯っていて、寒い外とは違いしっかりと暖かい。冷えた身体に温かさが染みてくる。こういう時、家に人がいるといいなと思う。  台所に立っている鴻上はぼんやりと玄関に立ち尽くす俺に不思議そうに首を傾げた。その視線に我に返ると、俺は瞬きをして息をつく。 「なんでもない。お前こそ早いな」 「恋人が待ってるので帰りますって、帰ってきました」 「面倒くさいことに巻き込むなよ」 「だって、本当のことじゃないですか」  至極楽しげに笑う鴻上に目を細めれば、ますます笑みを深くする。この顔はなにを言っても無駄な顔だ。面倒ごとは避けて通るのが俺のポリシー。肩をすくめて自分の部屋に足を向けた。  コートとスーツを脱いで部屋着に着替えると、ふと足元の小さな紙袋が目に入る。オレンジ色のそれを指先で持ち上げてしばらくじっと見ていたが、諦めたように俺はため息を吐き出した。 「おい、これ」  部屋から顔だけ出して紙袋を鴻上に差し向けた。
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