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第7話

 それにはさすがにやつも驚いた顔をして固まる。そして手を上げた俺も固まってしまう。そんなつもりではなかったのだが、口を塞ぎたいと思ったら手が出ていた。 「わ、悪い」 「……酔っ払った先輩をなし崩しに押し倒した俺にも責任はありますけど、ちゃんと俺、日を改めて確認しましたよね? 俺でいいんですか? って。それに返事をくれたから覚えてると思ったんですけど。どういうつもりで俺の言葉に返事したの?」 「え? そ、それは」  やばい、なんだっけ。これはさっきも思い出そうと思って思い出せなかった。なんで思い出せないのか、多分それはかなりいい加減に返事をしたってことだ。心の内をのぞき込むような視線に、冷や汗をだらだら掻きそうな気分になってくる。  ああ、ちょっと待ってくれ。いくらなんでも告白のきっかけとしてそれはあまりにも最悪すぎるだろう。最初に寝た時のことは酔っ払っていたけれどなんとなく覚えている。付き合う前だが、合意の上であるのは確かだ。しかし言った言葉はまったく覚えていない。 「水地先輩、俺のこと好き?」 「……す、好きだ」 「本当に?」 「当たり前だろっ! 好きでもない男とキスしたり寝たり出来るかよ」 「先輩付き合う前に俺と寝てるけど。その前から好きってこと?」  こいつと付き合う前? そりゃ、少なからず好意はあっただろうけど。男相手に寝てもいいか、なんて思えたんだから。でもその時、好きだったかどうかなんて、よく覚えていない。  一緒に飲んだりするのは楽しかった。一緒にいて気が楽だった。それから、ほかのやつより近いパーソナルスペース、それは戸惑ったけど嫌じゃなかった。 「わ、わかんねぇよ。でも、あの時は嫌じゃなかったし」  一年も前の酔っ払った時の記憶なんて曖昧なものだろう。ことこまかにはっきり覚えているほうが珍しい。  そもそもだ。この面倒くさがりの俺が他人に合わせているだけでも珍しいことなんだぞ。
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