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第8話

 プライベートに干渉されるなんて嫌だったし、ベタベタとまとわりつかれるのだって嫌だったし、恥を忍んでまで言うこと聞くなんてあり得ないことだ。 「お前は、元々特別なんだよ。それ以外わからねぇよ」 「んー、まあ、いいか」 「なんだよ」 「口下手で面倒くさがりの先輩がそこまで言うならそれでいいかな、って」 「試してたのかよ!」 「だって先輩、結構いい加減ですし。まあいいか、で振られたらたまらないし。俺は必死なんですよ、飽きられないように」  じとりと睨み上げたら肩をすくめられる。シャツを握りしめる手に力を込めれば、ふっと小さく笑う。口を引き結ぶと、ゆっくりと近づいてきた鴻上の唇が口先に触れた。 「もう一回、言ってください。俺のこと好き?」 「……好きだ」 「うん、忘れていたこと許してあげます」  俺の言葉に満足そうに笑って、鴻上はまた唇に触れてくる。小さくついばむように触れて、何度もそれを繰り返す。リップを音がかすかに響いて、そのたびに胸の音まで響いてくる。  好き――心の中でそう繰り返せば、少し気持ちが落ち着いてくる。特別だから好き。ほかの誰でもない、この男だから好きなのだ。大きな理由なんて多分ない。ただ、傍にいることが嬉しい、楽しい、そして幸せだ。 「咲良(さくら)さん、好きですよ」 「名前で呼ぶな」 「可愛い名前なのに。俺は好きだけどな」 「お前はなんでもいいんだろう」 「はい、先輩ならなんでもいいです」  チョコレートより甘ったるい笑顔と囁きで、こいつはいつも俺を絡め取ろうとする。けれどそれが嫌じゃないから困る。むしろ少し嬉しいとさえ感じてしまう。いつからそんなに慣らされてしまったのか。  付き合いましょう――そう言われた時は、こんなに好きになるなんて思わなかった。この男にひどく調子を狂わされている気がする。それでも後悔するような気持ちにはならない。  それどころかこの毎日が長く続けばいいなんて考えてしまう。飼い慣らしてやるつもりがすっかり飼い慣らされている。そんな自分に気がついて思わず笑ってしまった。  しかしそんな自分も悪くないって思えるのだから好きという感情はひどく厄介だ。 チョコより甘いもの/end
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