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塔の麗人

アルベニア城の西には小島があり、この小島へは城内から伸びている橋からのみ行くことが出来た。 それというのもこの小島には塔が建てられているが島自体は険しい岩山でできているので海岸部からこの島に入ることはほぼ不可能だった。 入り口に二人の警備兵が配置され外から鍵がかけられている。 フレデリックは警備兵に声を掛けて持参した鍵で開錠して中に入る。 王の執務室から兵士がついてきていた 「君はここで待機してくれ」 「いいえ、王からの命令ですので同行いたします」 「わたしは教育係ではなく、ヴァレリーの兄だ。同行は不要だ」 と不機嫌この上ない表情で言い放つも 「フレデリック王子には申し訳ありませんが王自らのご命令になりますので、同行させていただきます。」 教育係や世話役などヴァレリーの周りには数人の使用人がいることは居るが、基本的には1対1での接触を禁止している。 さらに、この塔に居るものはβのみとなる。 王の命令ということは、王はわたしを信用していないということか、 まぁ、その危惧は外れてはいなかったのだが・・ 無理やりにでもわたしの番(つがい)にしてしまえば、さすがにヴァレリーをエクセリアに嫁がせるわけにはいかなくなる。そんな気持ちが無かったと言えば嘘になる。 もし、この階段を一人で登っていたら、そう言うことになっていたのかもしれない。 この塔は大量の本の所蔵がある、本を読むのが好きなというか、本くらいしか世界を知ることが出来ないヴァレリーの為に王やわたしが集めたものだ。 塔に幽閉していることで王はヴァレリーを愛していないのかというとそうではない、むしろ最愛の人アデールに瓜二つのこの王子を大切に思うが故このような状態になっている。 アデールをたったの一度だけちらりと見かけたことがあったが、Ωの男性で首には美しい装飾の首輪がつけられていたように思う。 何故、王が執拗なまでアデールを人目に出さないのかが不思議でならないが、私の考えでは王との番(つがい)関係が成立していないのか、もしくはアデールにはほかに番(つがい)が居るのかもしれない。 そんなことを考えながら階段を上ってるうちに最上階に到着した。 外見は石作りの冷たい雰囲気の塔であるが、中は白を基調としたゴシック様式で造られて、小さな教会のような清潔で清廉な空気感を醸し出し、清らかで美しいこの塔の主そのもののような建物だ。 この塔は主を失ったらどう変貌していくのだろうか。 ヴァレリーを失うと思うとアデールをどこかに閉じ込めている王の気持ちがわかるような気がした。そんな思考に支配されている自分に対して苦笑いしながら ひし形の中に花をイメージした彫刻の施された真っ白な扉をノックすると、すぐに 「はい、今参ります」とルリビタキのようにかわいらしい声が聞こえてきた。 扉がひらきサラサラのブロンドヘアにコバルトブルーの瞳をもつ美しい青年が顔を出した。 「お兄様、どうされたんですか?」 いつもは言われたことのない言葉におどろいて 「何がだ?」 「なんとなく、気分のすぐれない感じがしましたので」 「ああ、なるほど・・・そうかもしれないね」 「入るよ」 「はいどうぞ、兵士様もどうぞ」 そういってヴァレリーは二人にソファを勧めたが、ソファに座るのはフレデリックのみで兵士は扉の前で直立して待機をしていた。 ヴァレリーはフレデリックの前のソファに腰掛け 「それで、お話は何でしょう?」 「ただ、ヴァレリーの顔を見に来たんだよ、と言っても信じないだろうね」 にっこりと笑うヴァレリー 「実は、ブリジットがエクセリアへ行くのは厭だと言い出してね、ただ、アルバニアとしてはエクセリアの助けが必要なんだ。どうしても、つながっておかなくてはこの国の存続が難しくなる」 「そこで、ヴァレリーにエクセリアに行ってもらいたいと思っている。この塔にいつまでも幽閉されるよりも、その・・・」 「僕がブリジットの替りに、エクセリアの王と結婚するということですよね?」 「そうだ」 「わかりました。喜んでエクセリアに行きます」 あまりにも晴れやかな表情で答えるヴァレリーを手放したくないという気持ちに支配されながらも 「先方には王女ではなく王子が行くことを伝えていない。あと数日でエクセリアからの使者が到着する予定の為、こちらからの連絡が遅れてしまっているのだ」 「だから」 「わかりました、エクセリア王に僕から伝えてうまく話をすればいいのですね」 「すまない」 「僕なら大丈夫です」 そのあとは他愛のない話をしてフレデリックは城に戻って行った。 ヴァレリーはエクセリアのある北東にある窓から遠くを見つめる、もちろんエクセリアが見えるわけではないが、部屋の中で一番のお気にいりの場所だった。 テオドールに会える。 たとえブリジットの代わりだとしてもかまわない 「テオドール、本当はブリジットを求めていたのに僕が行くことになって騙してしまうことになるけど、僕が行って幻滅するかもしれない、僕のことなど覚えてないかもしれない、愛されなくてもあなたのそばにいたい。」 窓からそう声に出していってみる。 テオドールはお兄様と同じ25歳、きっと凛々しい王様になっているんだろうな、お妃も何人もいるのかもしれない。 でも、僕もその妃の一人になれるのならそれでもいい。
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