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第4話

 助けてくれるつもりなのかもしれない、樹はたった今思い出したとばかりに獣人の肩を叩いた。 「あー、兄ちゃんか! 悪い悪い忘れてた」 「そんなに飲み過ぎるなんて、お母さんに報告しないといけないかな。ごめん、たっちゃんのお友達。今日は勘弁してあげて」 「あ、はい。わかりました」  尾上は萎縮したように獣人の言葉に頷き、管を巻くアルファの男を他の参加していた男達と共に無理やり連行して行った。女性陣はもう帰りたそうな様子だったが、あれはきっと当人達の好きなようにするだろう。  その背中が遠くなると、樹は背中を預けていた獣人に振り向き勢いよく頭を下げた。 「助かりました、有難うございます。迷惑かけてすみません」 「ううん、俺の方こそ名前聞いて勝手に呼んだりしてごめんなさい。歩けるかな、フラフラしてるし水ちゃんと飲んだ方がいいよ。俺の店近いから、そこまで歩ける?」 「客引きならお断りです」 「はは、違うよ。お冷は無料です、そもそも君もう飲めないだろ」  身体に触れることはせずに自分の店の方向があるらしい方角を指す様子からも危険がないことはわかるが、客引きだったのなら話は別。拒否をしようとするが、違うと笑いながら一蹴された。  本当に客引きじゃないのか、訝しげに見ていると獣人は懐から名刺入れを出し、一枚樹に手渡した。小さいバーの店主らしく、名前のほか住所とメールアドレス、電話番号まで載っている。 「もし俺が変なことしたら、警察の人にこの名刺を渡してくれて構わないよ。店戻ってタクシー呼ぶから、ついて来てください。俺の手が届かないように離れて歩くから」  こんな無防備なオメガ、黙って外には置いておけない。それに自分には妻がいると首元の毛に隠されていた指輪も見せる獣人に、信用してみるかとついていくことにした。  繁華街から駅に近付いた中の一軒の少し古いビルの地下。外階段を降り、店の玄関から入る獣人の後から店を覗き込む。客は皆無、そしてバーカウンターには女性が1人。彼女が妻だろうか。樹の姿を見るなり、呆れたように表情を変えられてしまった。 「マスター、遅いと思ったらまた拾ってきたんですか」 「前後不覚なオメガを外に1人で置いておけるわけがないだろう? 変なアルファにも絡まれてたし、タクシー来るまではうちにいてくれた方が安心だしさ。はい、お水」 「あ、有難うございます」  扉から一番近いカウンター席に座った樹に、獣人ははいとお冷を出す。それを受け取り、飲むわけでなく頰に当て、冷たい気持ち良さにほっと息を吐き出した。  タクシーを手配してくれている女性をよそに、樹の様子に獣人は冷たいタオルも出してくれる。

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