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第14話
岬生は樹をその場に残し、扉を閉め出て行ってしまった。たった今告げられた言葉に頭が真っ白になりながら、樹は服を脱ぎ、りんごジュースでベタベタになった髪の毛を洗い流す。
既婚者だから大丈夫だと思っていたのに、奥さんはいない? そんなの駄目だ、だって自分はオメガで相手はアルファで、別れられる程度なら元妻は運命の番ではなくて、ということはつまり。
やはり泊まりなんて無理だ。風呂から出たらすぐに帰ろう。早く帰って、明日からはUboatには行かない。岬生が悪い人ではなく、ちゃんと自分をオメガではなく佐藤樹として見てくれているのはわかっている。
頭ではわかっていても、番がいないアルファというだけでそれを拒絶してしまう。
それでも、今日自分を助けてくれた時の岬生の顔が思い浮かぶ。いつもの穏やかな表情を取り繕う余裕もなく牙を剥いたあの表情。心臓がきゅうと締め付けられ苦しくなる。それさえも好きで、自分を好きにならないからではなく、岬生という獣人に惹かれてしまっている。
自分が想いを告げなければいい。もう、会わないようにすればいい。そうすれば、好きなままで終わるから。でも、会えなくなるのは嫌だ。
頭上から降り注がれるシャワーを浴びながら、樹は自分がどうすればいいのか、自分がどうしたいのかもわからず膝に顔を埋めた。
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