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第21話

 少し困ったような表情をするそれに、消えてしまいたくなる。もう二度と、会えなくなってもおかしくない。 「あのね、たつくん。俺も君がオメガだから優しくしたんじゃないよ」 「知ってます」 「これまで、色んなオメガをたつくんと同じように助けたんだ。あそこら辺はホテル街も近いでしょ、よくアルファにオメガが泥酔させられて、ホテルに連れ込まれたりが多いから。でも皆、助けたら俺のことが好きになったって言ってくるんだ。俺がアルファで、助けたってことは好意を持っているんだって勘違いされて。ただの善意なのにね。だからたつくんのことを助けたとき、同じように惚れたとか言われたらもう助けるのはやめようと思ってた。でも、たつくんはそんなこと一度も言わなかったし、こうしてずっと、隠してくれた。俺はオメガだから優しくしたんじゃなくて、たつくんがそういう子だったから優しくしただけだよ」  全部、わかっている。岬生の優しさはただの善意で、好意じゃないこともわかっている。  岬生が優しいのは、オメガとしてではなく、樹としてUboatに通っていたから。無意識のうちに出していたフェロモンは酒のせいだと互いに誤魔化していたから。  でも、樹はオメガで、そのオメガが好意を寄せていることに変わりはない。もう、引き際だ。  樹は、ぼたぼたと溢れる涙を拭うこともせず岬生の頰を撫でて来た手を振り払った。 「もう、会いに行きません。Uboatにも行きませんから」 「どうして?」 「だって、奥さんのことが大事なのに他のオメガに好かれてるなんて嫌でしょ」 「そんなこと……」 「でも、……暫くは忘れられそうにもないんで、岬生さんのこと、好きなままでもいいですか?」  こんなに優しいアルファ、すぐ忘れるなんてできない。  樹が涙声で問うと、岬生は腕を伸ばし抱きしめて来た。 「忘れなくていいし、好きなままでいいよ。ごめんね、そんなになるまで追い詰めた」 「嫌だ、岬生さん離してください」 「離しません。……樹くん、あのね」  この雰囲気は、駄目だ。  突き飛ばそうにも力が敵わない。ベッドにそのまま押し倒され、岬生に組み敷かれる。 「今気付いたんだけど、……俺、君のこと好きみたい」  もう、終わりだ。

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