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第27話

 ずっと頑なに自分を好きにならない人が好きだと言い続けていたのは、他にも理由がある。  同じオメガだった自分の姉が、付き合っていたアルファに捨てられ自殺したから。だからどんなアルファを見ても、自分の好みじゃなくなったと判断した途端に嫌いになるに違いないと思っていたから。優しい岬生でも、それは変わらないと根底のどこかで思っていた。  でも、違った。誠実な言葉に、亡くなった妻をずっと愛し続けている姿。狼の性質を持つ彼は、好きな相手は一途に想う。  だから、岬生は今まで出会った他のアルファとは違う。 「好きです。でも、子供もいるのに俺なんかを好きになっちゃ駄目だから」 「もしかしなくても、俺が新しくパートナー作ったら息子に悪い影響があると思ってる?」 「だって、まだ俺子供だし、歳だって倍近く違うし」 「うちの息子、むしろ早く新しく誰かと結婚してって言ってるから気にしないと思うよ」 「……俺は、その」 「弟か妹ほしいって言ってるし、俺もそろそろ40になっちゃうし、たつくん逃したらもう他に新しい奥さんになってくれそうな人いそうにないから困っちゃうな」 「……逃げ道絶ってくるのやめてください」  子供がいるから。歳が離れているから。自分は亡くなったあの人とは違うから。逃げようとするたびに全てを包み込むように受け入れると言ってくれるそれから逃れられない。  岬生は、とどめだとばかりにふかふかの手で頭を撫でる。 「思えば、初対面の時からたつくんのこと気に入ってたかも。もしかしたら運命の番かもしれないね」 「……やめてください、ほんとに」  運命の番は、一生離れることはない。嫌われることを何より嫌がっている樹が、唯一アルファとの関係で望み憧れるもの。頸を硬い肉球でなぞられ、吐息が漏れた。 「んっ……」 「ねえ、お願い。俺の番になってほしいんだ」 「……奥さんとも、番にならなかったのに?」 「彼女と同じくらい好きになれる人なんて君以外にいないし、……もう、俺の見てないところでいなくなるのは嫌だから。番になったら他のアルファにはベータと同じに見えるようになるから、お願い。守らせて」  もう、好きな誰かを失いたくないと岬生は後悔を口にする。  何度も助けてもらっている。何度も守ってもらっている。だから番になんてならなくても変わることはない。  それでも、岬生が望むなら。

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