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第28話

 樹は、その手を掴むと押し戻した。駄目か、そう表情を暗くする岬生から顔を逸らし、樹は外を眺める。 「この先ってホテル街でしたっけ」 「う、うん」 「……あー、車に乗ってるから逃げられないなー。発情期始まって今日で1週間かー、抑制剤も朝飲んだきりだしなぁ」  余程の馬鹿じゃなければ、この発言の意味なんて理解できる。  発情期の間普通なら何もできない身体も、抑制剤で普通に生活できるようにできていた。それを朝飲んだきり、服薬できる時間はまだ数時間あと。  発情期の間オメガの身体はアルファを受け入れやすくなっている。番になるには、行為をした上で頸を噛む必要がある。  だから、番になりやすいのは今日まで。  岬生は何も言わずに車を走らせる。Uboatがある飲屋街の手前、ビルが立ち並ぶ中でもとある大きめな建物の駐車場へと入った。  ラブホテルなんて人生初。樹は自分で促しておきながら本当に今から岬生と、と考えてしまい赤くなってしまった頰を隠すために俯く。車から出た岬生にシートベルトを外され外に連れ出される形で、その後ろについて行った。  人生経験の差か岬生は訪れたことがあるようで、慣れたように受付も済ませ樹の手をとり部屋へ向かう。尻尾が微かに揺れている。嬉しいのだろうか、それを見ながらただただ黙ってついて行った。 「たつくん、お風呂入りたい?」 「終わってからでいいです」 「そっか。……あの、俺そんなに余裕ないからね」  誰ともすれ違うことなくエレベーターに乗った状態で視線を合わせず言われるそれに、また頰が熱くなる。部屋が近付くにつれ手を引く力が強くなり、部屋の鍵を開けた時には少し乱暴に抱き寄せられた。 「ごめんね、前より酷くするかも」 「岬生さん、いっつも謝ってばっかり。謝らなくてもいいことまで謝る必要ないし、……今日は、俺のこと番にしたいんでしょ?」  頸に強く噛み付いて、一生消えない繋がりを作る。そのために来たのに、優しくされるだけなんて思ってない。  樹の言葉に、背後から抱きついていた岬生は何度も首に噛み付いて来た。  牙が皮膚を貫きそうで痛い。それでも、気持ちいい。鼻から抜ける嬌声が、益々岬生の理性を焼き切っていく。

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