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第30話

 追いかけるように顔は近付き、もう無理だと更に逃げる。重心が後ろに行き過ぎた所為か、そのままぺたりと仰向けに横になる形で倒れてしまった。  ゴム質の玩具が奥まで入り込み、悲鳴が漏れる。だが根元までずっぷりと入り込んだそれも、先週挿れられた記憶のある岬生のそれよりは手前で止まる。念入りに解すと言っていた岬生の言葉の意味がわかり、そしてそれが引き抜かれ岬生の熱が押し当てられたことに身体が硬直してしまった。 「奥まで入ったならもう挿れようか?」 「待って、やだ、まだ駄目」 「待たない。頸噛むなら後ろからの方がいいかな」  あんなにも、すぐに欲しいと言っていたそれを受け入れる覚悟が今更薄れた。そんなこと、言っても聞いてはくれないのに。  俯せにさせられ、細い先端が押し込まれる。潤滑剤を流し込むように増やされ、無理に挿入された。  前より酷くするかもしれない。その言葉通りだった。夜中寝室で子供が起きないよう声を押し殺すようにしていた先週とは違い、何も気にするものはない。何度も激しく腰を揺らし、理性など全て吹き飛んでしまったかのよう。  まさに獣のような荒々しい息遣いと律動に、樹は漏れ出る声を抑え切れない。 「っ、ぁ、あ、ンッ、ァ」 「たつくん、樹、噛んでいい?」 「っう、ぁあ」  内壁を抉られるようにゴリゴリと刺激され、喉から絞り出されるのは苦しげな喘ぎだけ。それでも樹は短い襟足を自ら掻き上げ、岬生の眼前に頸を露出させた。  鋭い犬歯が皮膚に突き刺さり、それと同時にびくびくと腰が揺れる。岬生の喉の奥から獣じみた低い唸りが漏れ、亀頭球でまた蓋をされるのがわかった。  達したのだとわかると同時に、中に体液が溢れる感触が来る。大型の狼アルファが発情期のオメガとの交尾で放つ子種全てを避妊具で受け止め切れず、中で外れ溢れ出てしまっていた。  たった1回達しただけでも受け止め切れない。みっちりと蓋をされているはずのそこから、ぐぷりと白い欲望が溢れる。暫くそれを抜くことはできない。岬生は溢れ出た自身の欲を樹の肌に塗りつけ、きつく噛み付いた頸を舐めながら囁いた。 「たつくん、抜けたらもう一回していい? 番になったんだから絶対に嫌いにならないって、赤ちゃんできるまで君に教えたいから」 「も、わかってるから、もうむり」 「無理じゃないよ。こんなにフェロモン出してるんだから、赤ちゃんできるまで頑張れるよね?」  そんなのできたら、大学だって通えなくなる。就職だって、これからの話なのに。

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