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第33話
彼に言われても、番のことに関してはどうしようもないことだ。互いに想いあい、番になりたいと望んでしまえばそれを他の誰かが止めることはできない。
常連客に祝われ、芳佳に敵認定をされ。樹はどうすればいいかわからなくなる。
それでも、岬生が笑っていてくれるから。
明日、岬生の息子と初めて起きている状態で対面する。岬生の番になったのだから、いつかは自分の子供になる子。
今から緊張してしまう。もし拒否されたらどうしよう。芳佳のように敵認定をされたら、流石に落ち込んでしまうかもしれない。
そんな樹の目の前に、一杯のカクテルが出される。何も頼んでいないのに、そう思いながら岬生を見上げると、にこやかに笑ってみせた。
「ホーセズネック。今日は思いっきり飲んでいいよ、ちゃんと連れて帰るから」
岬生の甘いだけの言葉には樹は小さく首を振り、一口だけ呷った。
二日酔いの状態で子供に会うなんてできない。だから今日は程々に。
まだ21歳で、大学生で、それなのに番ができてしまった。岬生は初めての相手で、狼の彼は一生自分を愛すると言ってくれる誠実なアルファ。
自分に子供ができてもできなくとも、岬生の子供も同じだけ愛情を注ぎたい。岬生が自分と亡くなった妻を同じだけ愛しているように、子供に対しても同じだけ。
自分のことを、心の底から愛してくれる人が好き。そんな人の子供には、自分だって誠実に向き合いたいから。
酒の意味なんて知らない。それでも今出したということはこれが特別な意味を持っていることくらい理解できる。
一目見た瞬間に恋に落ちたわけじゃない。岬生が、自分の運命の番なわけじゃない。
それでも、番になった時点でそれは運命に違いない。
ブランデーの味がするそれを飲みながら、樹はカウンターの向こうにいる岬生に視線を向けながらこれからに思いを馳せた。
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