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今日はおやすみ
何を言っているのか、自分自身でも意味が分からない。そんな適当ででたらめな理由でお断りを入れると、先輩は小首を傾げて不思議そうにした。
不思議なのは俺も同じだって言ってやりたいけど、もちろん黙る。これで先輩が納得してくれるなら、俺は甘んじて不思議君になってやろう。
「俺なんてファミレスで十分なので!ファミレスのハンバーグが食べれたら、それはもう幸せで宇宙まで飛べます!」
「あれ……確かさっきは甘い物って言ってなかった?」
「変わったんですよ!本当、ついさっき!!急にハンバーグが食べたくなって!」
「なるほど。ハンバーグならおススメのステーキハウスがこの近くにあ」
「やっぱりピザにしようかな!!!うん、ピザだ。今日は1枚298円のピザを腹いっぱい食べたいな!」
「298円でピザ……?」
大声で先輩の言葉を遮り、さっきまでとは逆に俺が先輩の腕を引っ張る。オタクに連れられて歩くイケメンなんて尋音先輩ぐらいなのに、先輩は嫌がることなくついて来てくれる。
とにかく手近なファミレスにでも入って、適当に時間を潰して帰ろう。帰りはできるだけ別々になるようお願いして、もし無理なら最悪Tシャツを脱いでインナーだけになればいい。
中に着ているのが無難な黒の無地で良かったと思いながら頭の中で算段をつけていると、後ろから「じゃあさ」と先輩が話しかけてきた。
「俺の家に来る?ミィちゃんは外だと人の目が気になるみたいだし、ピザなら誰かに頼めると思うよ」
……いや、待ってくれよ。確かに高級ホテルのカフェは嫌だし、ステーキハウスに連れて行かれるのも嫌だけど。それなら家はどうかなんて、もっとハードルが高い。
もし自分たちの跡取り息子がオタクを連れてきたら、高貴なる愛知家の皆様はぶっ倒れてしまうんじゃないだろうか。それとも先輩を人質にして、俺が立ちこもろうとしていると思われたら大変だ。
先輩の提案は俺にとって1番最悪なものだった。だから、これでもかと大きく首を振る。
「駄目です!!それはさすがにご迷惑というか、心配させるというか怖がらせると言うか」
「怖がらせるって、ミィちゃんは人の家を破壊するのが趣味とか?」
「さすがにそれはないです。見た目の平凡さと同じで頭も平均的なので。ですので、その心配はなさらず」
「まあ、ミィちゃんが多少暴れたところで簡単に壊れたりはしないと思うよ。もし壊れたとしても、直せば済むだけの話だし」
だから大丈夫だね、と王子スマイルで微笑まれると、もう何も言えない。さすがに先輩レベルの家柄の人が自分の部屋がないってことはないだろうし、もし誰かと会おうものなら、持っている鞄でTシャツのイラストを隠してしまえばいい。
この場で議論する間にも向けられる視線と、どこかに食べに行っても集めるであろう注目と、少しの気合いで乗り切れそうな先輩の家。その3つを心の中で比べ、俺は唸る。
「でも、いきなり家っていうのはどうかと。まずは学校帰りに遊びに行って、それから休みの日にも遊びに行って、そこからステップアップしての家がセオリーだと思うのに……」
「ちなみに、ミィちゃんのその情報はどこが発信源なの?」
「これは由比に借りた漫画です。あ、でもそれは確か男女の恋愛モノだったから、俺と先輩とはまたケース違いになるのかな?」
「どうだろう。詳しいことは分からないけれど、もう一緒に帰ったこともあるし、今日だって休日なのに会ってるわけだし。それならこの後に俺の家に来たとしても、セオリーを大幅に破っているは思わないけれどね」
それも確かに。先輩の言うことは一理あって、自然と出た答えである『尋音先輩の家』へ俺は向かうことにした。別に尋音先輩に乗せられたわけじゃない……と、思う。多分。
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