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第13話 苛立ち

 色んな罪悪感と嫌悪感に襲われながら、香彩(かさい)禊場(みそぎば)を後にした。  一時の嵐のようだった身体の火照りも、禊場の清められた湯が全てを洗い流したのか、通常さを取り戻していた。  身体が綺麗になって、気持ちがさっぱりすると、思い出されるのは先程のこと。  香彩(かさい)はどちらかというと、そういった面においては淡白な性質だった。興味がないわけではないし、時折自慰もしていたが、本能に直結するような、即物的なものは初めてだった。  本来ならばそういったものだ、そういうこともあるのだと、納得したのかもしれない。  だが。  たとえ真竜の体液の影響があったにせよ、慕う心を捨てると決めた相手を思い浮かべながらの自慰行為は、静かに香彩(かさい)を打ちのめし、心の中に影を落とす。  香彩(かさい)は気合い入れのように、己の頬を両の手で二回程叩いた。  これで終わりだ。  自分自身の中で、忘れたくないのだと、忘れたいのだと、ふたつの心がせめぎ合っていたが、香彩(かさい)は敢えて重い蓋をする。  少なくとも竜紅人(りゅこうと)とは、普通に会話が出来ていた。昨夜の出来事から、一番はじめに出会ったのが竜紅人(りゅこうと)だったことから動揺はしたが、いつも通りだ。  このまま何もなかったと、思い込めばいい。そうすればいつの日か、竜紅人(りゅこうと)の言動や行動に心を痛めず、意識も向かわなくなる日が来るはずだ。  その時が来るまで、耐えればいい。  そう考えながら香彩(かさい)は、自分の私室の前に辿り着き、何気に戸を開ける。  どうして気付かなかったのだろう。  どきりの心の臓器が、嫌な音を立てた。  姿見の前ある椅子に座り、よう、と香彩(かさい)に挨拶をする竜紅人(りゅこうと)が、そこにいたのだ。  何故いるんだと思った。  だがすぐに香彩(かさい)は思い出す。  髪紐を貸してくれと言った竜紅人(りゅこうと)に対して、自分は言ったのだ。  姿見の引き出しにあるから、適当に持っていけと。   (……ああ、もう)  心が追い付かない。  もう少し心が落ち着いてから、気持ちの整理がついてから、竜紅人(りゅこうと)に会いたかったというのに、それすらも赦さないと言われているようで。  しかも竜紅人(りゅこうと)の姿を見ると、自分が先程までしていたことをどうしても思い出してしまって、とてもいたたまれない気分になる。 「……やっと戻ってきたか」  視線すら合わせられない。  香彩(かさい)は、ほんの少しだけ竜紅人(りゅこうと)を見ると、ちょうど竜紅人(りゅこうと)の鎖骨辺りで視点を止めた。()らすのは不自然であり、かといって全く見ないのも不自然だと思ったからだ。 「どうしたの? 髪紐、なかった?」 「いや、あったさ。ただ気になってな。お前を待ってた」  そう言いながら竜紅人(りゅこうと)が椅子から立ち上がると、香彩(かさい)の側に立った。

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