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第26話

雨の日、それも郊外にあるデパートは暇だ。特に紳士靴売り場は普段から客が少ないのだから、尚更だ。 ほぼ客のいない中、什器の埃を拭き取ったり、商品の陳列に少しでも乱れがあれば直したり、中には何かファイルを広げて仕事の話をしている風に装い、雑談をする従業員もいる。 俺もする事がなく手持ち無沙汰で、倉庫整理をしたり、何度目なのか最早数えきれないほど売り場巡回をしていた。 そして、雅己とのことを考える。 俺は雅己の家に私物を引き取りに行かず、そのままにしてある。雅己からの連絡がないのだから、きっとあの部屋はそのままだ。捨てられている可能性もあるけど、雅己は他人の物を勝手に捨てたりはしないと思う。多分……。 私物をそのままにすることで、関係を完全には終わらせない状況にしている。俺はずるい。 「すみません」 後ろから声を掛けられて「はい。いらっしゃいませ」とマニュアル通りの返事をするが、その相手を見て、俺は一瞬、固まってしまった。 「ーー なんで……」 「この靴の27センチはありますか?」 手にキャメルの革靴を持ち差し出して来たのを受け取る。 「あ……はい。少々お待ちくださいませ……」 胸が早鐘を打つ。 特に笑顔でもなく怒っているでも無い。ごくごく普通のそこらにいる客と同じような態度で聞いてくる雅己。偶然、買い物に訪れたのだろうと在庫の確認を行い、倉庫に向かう。扉を閉めると俺は大きく息を吐き、壁に手をついた。 ーー偶然なわけ、ないだろ……。 自分を納得させようと巡らせた考えを否定する。こんな郊外に雅己が一体、何の用があると言うのだろうか。 ーー俺に会いに来た? それしか考えられなかった。 希望サイズの在庫を手に売り場に戻る。 「大変……お待たせしました」 試着しやすい様に雅己を椅子に促す。 雅己の足元にひざまづく様にして、箱から靴を取り出した。キャメル色したレースアップの革靴。雅己は自分に似合う物をよく分かっている。 足を入れやすい様に靴紐を緩めて床に置いた瞬間、上から雅己の手が被さる。 雅己は俺の手を取り、指先まで撫でるように滑らせるとギュッと握り込んできた。 誰かに見られでもしたらと焦ってキョロキョロ周りを見廻す俺とは逆に、真剣な面持ちで握った俺の指先を眺めている。 「戻って来て欲しい」 驚いてまじまじと雅己の顔を見る。すると視線が合い、再び口を開いて続けた。 「嫉妬していたんだ」

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