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エピローグ
ベッドで眠る依吹の髪を、達樹はさらさらと撫でた。
地味な印象のこの青年が、最中には、どきりとするほど淫蕩な表情を浮かべることを、達樹は知っていた。
最初は、電車の中で偶然に、彼が痴漢をされている場面を目撃した。
そのときの、依吹の表情に。
達樹の欲望が刺激された。
達樹はしばらく、依吹が痴漢されているのを眺めて楽しむことにした。
そうしているうちに、達樹自身が痴漢行為を行うようになる。
気弱な依吹はいつもおどおどとしていたが、その恥じらう表情には艶があり、もっと恥ずかしいことを強請っているようにも見えた。
いつ、依吹を自分のものにするか……欲しいものを我慢などしたことがない達樹であったが、痴漢を受けている依吹が思いの他可愛くて、ずるずると痴漢の立場に甘んじていたのだが……。
そんなある日、達樹は自身の起こした暴力事件で一年間服役することとなった。
冗談じゃない。
一年もこのいやらしくも無防備な生き物を放置したら、誰かべつの男に盗られてしまう。
そこで達樹は、自分に甘い父親の権力を最大限駆使して、今回の計画を実行に移したのだった。
「いや~。しかし若の行動力はパねぇ」
滝村が気安い口調でそう言って、達樹の咥えたタバコに火を点けた。
この世は金で動いており、それは刑務所の中でも同じだ。タバコでも酒でも、達樹にかかれば不自由はしない。
「痴漢事件でっち上げて、あれよあれよという間に実刑くらわしてるんスから」
「こんな善良そうな奴をまぁ、よくこんな場所に」
ガタイの良い真鍋がひょいと逞しい肩を竦めた。
「俺に見初められたのがこいつの運の尽きだな」
ふぅ、と紫煙を吐き出して、達樹は色疲れの濃い依吹の目元を、指の背で軽く撫でた。
「飽きるまではせいぜい遊ばせてもらう。俺が飽きたら、おまえらに払い下げてやるよ」
ふん、と鼻で笑った達樹だったが、
「とか言って若は一度気に入ったら飽きないからな~」
「幼稚園の頃のプラモデルもまだ持ってますもんね」
と、舎弟二人にしたり顔で頷かれ、少しバツの悪い思いを味わった。
達樹の刑期は一年。
その間、依吹で遊ばせてもらい……飽きなかったら彼を連れて娑婆に戻る。
そうすれば今度は堂々と、電車の中で痴漢ごっこができるではないか!
娑婆に出たらあれもこれも……と妄想を外へ飛ばしかけて、達樹はふと首を振った。
先のことなどは考えなくても良い。
なぜならここは刑務所で。
ここでしかできないシチュエーションが、きっと山ほどあるだろうから……。
明日はどんなふうに依吹を虐めてやろうかと、そう思うだけで達樹は興奮した。
達樹の獄中生活は始まったばかり。
この新生活を堪能しつくしてやる、と決めて。
達樹はにやりと、唇を歪めたのだった。
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