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第47話

「やだ……っ、もしかして……っ!?」 「な……夏美さん!?」  まさかの場所でのまさかの再会に、俺たちはお互いに狼狽しまくった。  暴れる子供達を腕から落としそうになり、リードを握ったまま辛うじて地面に降ろす。  相手の連れてる子犬の方は岬と航に近付いて、尻の匂いをクンクンと嗅ぎ、嬉しそうに舐めてじゃれ始めた。  血が繋がった仲間だと、まるで分かってるみたいにーーもう俺は、その犬が誰なのかも分かってしまった。犬塚さんのマンションに俺がお邪魔した時に、俺の事を大歓迎してくれた余りにお漏らしした子だ。  一回り大きくなってたから、すぐには分からなかったけど……。  夏美さんは唇まで蒼白になって、ワナワナしながら俺の子供達を見た。 「何なの、その子たち……匂いが犬じゃないよね……?」 「こ、この子達はーー」  無意識に守るように後ろに2人を庇う。  まさか怒れるゴールデンレトリバーに変身した彼女に噛み殺されでもしたら……。  そっ、そうなったら俺、断固として戦うぜ!?  ケンカ弱いけど、子供には指一本触れさせねえ。  たとえ相討ちになってもガブーッと噛みつき返してやるからな……!!  悲壮な覚悟を決めてはみたが、夏美さんが襲い掛かってくることは無かった。  ただ、泣きそうな顔で俺のシャツを掴んできただけだ。 「誰のよ……!? まさかっ、お兄ちゃんの子なの!?」  その力は普通の女性って感じで、取り敢えずホッとした。 「どうやって産んだの!? 妊娠できないはずじゃ……っ」 「ーー君にそんなこと言った覚えはねぇけどな。……子供の前なんだから、ちょっと落ち着いて。あっちで、座って話そう」  宥めるようにそう言うと、彼女はガックリとうなだれながら俺の服を離した。  海沿いの道に向かってひらけた広大な芝生で、子犬が三匹ぐるぐる追いかけっこして遊んでいる。  甘噛みしてやり返されたり、上に乗ろうとして落とされ、ひっくりかえったり……獣人の子はああやって社会性を身につけるんだろうなぁ、なんて思う。 「この公園、よく来てんの?」  芝生に敷いた犬柄レジャーシートの上で夏美さんと並んで座り、俺は訊ねた。 「……今日は直人お兄ちゃんの子を連れてお花見に来ただけ」  どこか拗ねたような口調で夏美さんが答える。 「直人お兄ちゃんが最近仕事で忙しいから、大学が春休みの私が代わりに引率になって、飼い主役してるんです……」  直人お兄ちゃん、というのは恐らく犬塚さんの弟さんなんだろう。  なんか聞き覚えあるなと思ったら、橋で会った犬も同じ名前で呼ばれてたのを思い出した。  あれ、ただの犬じゃなく、もしかしたら直人さんだったのかもしれない。匂いが凄く犬塚さんと似ていて間違えたんだ。  それにしても、彼女がある意味見た目通りに、凄く若かった事に驚いた。ギャルっぽい化粧してるから年齢不詳なだけかと思ってたけど。  大学生だったら、結婚できる年になったばっかりなんじゃねぇのかな。  何となく、生徒を相手にするときのような気持ちになりながら俺は話し始めた。 「……子供は、君が考えてる通り渚さんの子だよ。でも、彼は知らないから、出来れば黙っておいて欲しいんだ。俺が勝手に産みたくて産ませてもらっただけだから」  そう言うと、怪訝そうな顔をされた。 「……? 妊娠できないフリして、お兄ちゃんのこと騙したってこと?」  その言葉がグサっと俺の胸に突き刺さる。  まぁそれに近いもんはあるよなぁ……。  いやいや、そうとも言えるけど、そうじゃねーんだよ。  い、一応、産んでもいいかって了解も取ってるんだからな! 「別に騙したかった訳じゃなくて、成り行きで誤解が広がっちまったと言うか……」 「言い訳なんか聞きたくないです。大体、わたしにはあんなこと言っておきながら、全然別れてなかったんじゃない! 嘘つき! みんな私のこと子供だと思って馬鹿にするんだから……っ」  膝を抱えて座った夏美さんがシクシクと泣き出す。 「ちょ、嘘じゃねえって。ちゃんと一回別れたけど、たまたま会っちまったんだよ」  ……て、何だかハタから見ると浮気して痴話喧嘩してるカップルみたいな会話だな。  夏美さんは泣きながらも、顔を上げてこっちをキッと睨んできた。 「ふうん……そう。たまたま、ね! ……私もあなたに嘘ついてたから、逆に嘘つかれたのかと思った!」  捨て鉢みたいな感じでそう言い放たれて、俺は首を傾げた。 「……嘘?」 「気付いてなかったの? もうとっくにバレてるのかと思ったのに。……渚お兄ちゃんが、婚活で誰も見つからなかったら私と結婚してくれるって話ーー嘘だよ」  俺は目が点になって、言われたことの意味が掴めないでいた。 「……はい?」  頭に疑問符しか浮かんでない鈍い俺に、重ねて夏美さんが噛み付く。 「あなたに、お兄ちゃんと別れて欲しくて嘘ついたって言ってんの!!」  その大きな瞳に涙が溢れる。  サッパリ分からなくて、俺はまた聞き返した。 「それってどういう……犬塚さんは、元々君の婚約者なんじゃ」 「……小さい時はね。でもお兄ちゃんは、婚活始める前から、私のことなんて妹としか見てなかった……。私は、違うのに。小さい頃からお兄ちゃんしか見てなかったのに……ホント、鈍感」  夏美さんの涙に濡れた綺麗な顔が泣き笑いに歪む。 「小さい頃、結婚しようって言ってたこと大人になったらすっかり忘れて……。初めてのお見合いに行った後、あんまり楽しそうな顔で帰ってくるから、私ほんとムカついて」  聞きながら、俺と一緒にカラオケに行った日か、と記憶が蘇る。 「お兄ちゃんのこと捕まえて、どうして婚活なんかするの、私はお兄ちゃんが好きなのにって、結婚するつもりだったのにって言ったら、本当にごめん、お前自身が本気でそういうつもりだったなんて気付かなかったって謝られた。それで、他を探しなさいって……」
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