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第1話

「今日の映画、楽しみだな」  へらっと笑って見せた青年に向けられたのは、呆れたような嘆息だった。 「何が楽しくて、俺は貴重な社会人の休日にお前なんかと二人で映画を見なければならないんだよ。とっとと彼女つくれよ」  それからふっと青年から目を逸らす。最初に声をかけた青年は、それでも気にしていないように信号が青に変わるのを待っていた。不満げな表情をしている、もう一方の青年は背も高く先ほどから周囲にいる女性たちが期待を含んだ眼差しで見上げているのだが、かといってそれに気づいても返すことはしない。こうやって二人で休日に遊ぶのが当たり前となっているくらい、彼らはずっと一緒だった。 「でも、そろそろこういうのも終わりかなあ。陽一さあ、結婚式いつやるんだよ。ちゃんと俺も呼んでよ?」 「……蓮を新郎側の席と新婦側の席どっちにするかで美緒と揉めているんだよ。いっそ神父役でもするか?」  背の高い青年――陽一から蓮と呼ばれた青年が寂し気に呟くと、ようやく陽一が笑って見せた。陽一と蓮と美緒、3人は偶然生まれた日が近く、近所同士だったのもあって物心ついたころには既に3人で1人のような不思議な関係だった。  それが崩れたのは、大学進学で陽一と美緒が遠い学校へ進んでからだ。蓮は一人だけ彼らと正反対の場所にある学校へ進んで、それなりに満喫した学生生活を送った。久しぶりに地元で再会したら幼馴染たちは恋人同士となっていて、寂しいような気持はどうしても消せないのだが、彼らが幸せなら蓮も嬉しかった。  就職は3人とも地元だったので、休日はまた遊べるようになったのも嬉しかったが、さすがに彼らが結婚したら回数を少なくしようとは決めている。 「神父役かあ。でも、俺って昔からなんかこう間も悪いし、アンラッキーだろう? 3人同じもの頼んでいるのに、俺だけおまけがない、みたいなさ」 「確かに」  ついこの間入ったファミリーレストランでもそんなことがあった、と陽一が笑った時だった。    ようやく赤から信号が青に変わった瞬間、周囲から女性たちの耳をつんざくような悲鳴が起こった。  たくさんいる通行人たちが一斉に後ろを振り返り、空を見上げている。何人かは携帯用の端末を空へと向けていた。    蓮が最期に見たのは、黒い影が視界いっぱいに広がったかと思うと、やがて酷い痛みと共に自分の視界を白い閃光が覆いつくす光景だった。

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