11 / 96

第11話

「こりゃまた立派な……」 「今日はね、神子様のお披露目があるのよ。本当は降臨された次の日にでもって陛下は考えていたみたいだけど、突然この世界に来たから神子やれます! とか無理よねえ」  そんな人々の話声が聞こえてきて、ウルと契りを結ぶ羽目になったあの広場を覗く。人々がひしめきあう中、豪奢な衣装を着た者たちが、これまた見事に装飾をつけられた6頭立ての馬車に座っている。なるほど、あれが王様と神子様ってことか、と蓮がアタリをつけたところで、豪華な馬車のすぐそばにウルの姿をみつけて思わず「げ」と呟いていた。  まるでその声が聞こえたかのように、タイミング悪く距離としては離れているはずのウルと目が合い、ウルが「なんでお前がここに」と言わんばかりの表情になった。  ちらりと様子を見たらとっとと帰るつもりだったのに、昔から続くちょっとした間の悪さは夢の世界でもご健在のようだ。さすがに今は仕事中だからか、時折あの蒼眼で蓮の位置を確かめているようだが、周囲の采配は卒なくこなしているようなのでなかなかのものだな、と蓮は感心して見ていた。  そういえばエイデス家は元々豪商だか豪族の家らしいのだが、ウルは王に取り立てられた立派な騎士で、とかマリナから聞いていた気がする。他の馬たちよりも体躯が良く美しい黒馬に跨り、いかにも西欧風の騎士といった格好をしているウルは、この場にいる誰よりも顔は良いし体つきも素晴らしい。蓮に接している時は不機嫌なことも多いが、ユニフォームを着ていると何割増しか格好良く見えるというのは真実だな、と蓮は心の中で頷きながら視線を変えた。 (あれが王様……)  若い頃はさぞ美男子だったのだろうという面影を残すロマンスグレーな王様は微笑みながら大衆に気品よく手を振っている。そのロマンスグレーな王様の隣にいる神子様は、黒い髪をしているのは分かったが、何かショックなことでもあったのか下を見つめて項垂れていた。何となくその雰囲気は蓮にとっては見覚えがある感じがして、良く見ようと身を乗り出すがとんでもない人数が押し寄せていて近づけそうにない。 (日本人っぽいような)  そう、こんなに派手な顔立ちの人が多いのに、数百年ぶりに降臨したという神子様は蓮にとっては親しみのある日本人顔をしているような気がするのだ。それにしても、暗い。 「なんだろうーな、やっぱりこんな派手な人たちに大注目されまくって恥ずかしいのかな」  そういえば着ている服もギリシア神話に出てきそうな神様風といえばいいのか、布を巻き付けた感じの恰好なので明らかに中年に近い男性が纏うには恥ずかしいのではないだろうか。髭もかなり伸びていて、ギリシア神話というかキリストっぽいというべきか。  蓮の独り言がうるさかったのか、「おい、お前少しは黙ってろ!」と近くにいた人々からブーイングが起こった。それに気づいたらしい神子様が顔を上げる。 (ん? やっぱり日本人ぽいよなあ)  神子様は蓮と目が合ったかと思うと、それから隣に座っていた王様にすごい勢いで話し始めた……が、話が通じていないのか王様は困ったような顔になる。ああ、やっぱり神子様も日本人かと蓮は確信した。どうやら頭を打って目覚めたら別の国に連れていかれた、もしくは夢の世界から目覚めないパターンは蓮一人ではなかったことが証明されたらしい。 (言葉が分かるようになるには現地の住民とエッチが必要とかさ、ちょっとどころじゃなくハードル高いもんね)  うんうん、と同情する蓮が頷いているうちに、蓮がいる方へ向かって神子様が指をさし始めた。もしかして自分を祝福して下さるのでは? と人々が期待でざわめく中、蓮は広場の奥の方に出店が連なっているのを見つけると、神子様から出店の方に興味が移った。神子様も蓮と同様にこの夢の世界にいるのかもしれないが、どうやら蓮とは立場が天と地ほども違うようなので、近づくことも会話したりすることも無理だろうと早々に諦めたのだ。 「こっちは結構お店が並んでいる。マリナに魚買っていったら喜ぶかな。ウルは……あいつの趣味、まったく分からんけど何も買わないで帰ったらがっかりするのかな」  王様と神子が乗る馬車の方は大騒ぎだが、蓮の意識は屋敷の者たちへの土産をどうするか、に向かっていった。天気は良いがじりじりと肌を焼かれる感覚はなく、爽やかな風が吹き渡っていてここで昼寝でもしたら気持ちよさそうである。

ともだちにシェアしよう!