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第23話
控えめに言って、神子の厨房来訪は大成功だった。
そもそも木の実を煮るだけなどというのは、神子様付きという名誉を賜った料理人たちにとっては屈辱的な毎日だったのだろう。
「実はですね、神子様もふつうのご飯がお好きなんですよ。木の実は食べないんです」
この世界に来てからずっと、人とまともに交流したことのない修にとっていきなり話しかけるのは辛いだろうと蓮から料理人たちに話しかけると、最初に神子様付きの料理人たちはぽかんとした顔になった。
「もしかして、普通に拵えた料理を提供してもいいのだろうか?」
「そうそう、みんながふっつーに食べているやつです。神子様もそういうのが好きですし、なんならその方がパワーも出ます」
蓮が続けて返事をすると、料理人たちは顔を見合わせた後、それから手を挙げて大喜びした。そのテンションの高さにまたも修が引き気味になったが、ここで引き下がっては意味がない。
「それでですね、神子様は料理を作る方も嗜まれております。ぜひ神子様自ら采配を振るっていただき、神子様の満足いく異世界ライフを楽しんでもらいましょう!」
おおー! とテンポよく料理人たちが拳を突き上げてくれた。さすが王城、なかなか空気の読めるメンバーがそろっているものである。
一際物静かで優しそうな男が微笑みながら修に挨拶をして、侍従たちも神子の手足をとなるべくせっせと働きまわっている。心なしか修の顔も嬉しそうだし、なんなら片言で会話もしているようだった。話すつもりになれば数日でまともに話せるようになりそうな勢いだ。
「レン様、と申しましたか。もし宜しければあなた様もぜひ一緒に作りませんか。今日は焼き菓子を作る予定でして」
原料はほとんど元の世界と変わらないようなので、焼き菓子という言葉から恐らくクッキーのようなものを作り始めたのだろうと蓮は素早く見て取った。
包丁を握ると「怖い」とみんなに止められてしまいそうなのが恥ずかしいように思い、修たちがワイワイとやっている様子を後ろからぽつんと見守っていたのだが、丸くしたり押しつぶしたりするくらいなら蓮でもできそうである。
割と本格的な料理を作っている神子グループとは別に、厨房の中でも一番の若手だという少年少女と一緒に鼻歌まじりで作った焼き菓子はサクッとしていてなかなか美味しそうな香りが漂う。
「これって持ち帰っても大丈夫ですか?」
「もちろん、それはレン様がお作りになったのですから。レン様がお持ち帰りになって結構ですよ」
やったあ! と子どものように思わず大声を出してしまい、驚いたように修たちが一斉に蓮を見る。
「あ、声大きくてごめんなさい……美味しそうにできたから、ついつい」
蓮が慌てて釈明すると、またしても「ふっ」と小さく修が笑う声がして、それから一気に笑いが巻き起こったのだった。
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