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第44話
「レン、その手に持っているものを良く見てくれ」
「あ、これ? ……紋章が、一緒だ」
先ほどウルから手渡されたばかりの首飾りの石に刻まれた紋章を良く見やると、あの時から蓮の体に浮かび上がったそれと酷似している。そういえば神子の特徴とは、という話をした時に、首元にその神を現す紋章が現れるとかそんな話を聞いたことがあったように思う。
「お食事を置いていきますからね」
準備を整え終えるといつぞやの日のようにさっさとマリナが出ていってしまう。首飾りを手に持ったまま固まっている蓮から首飾りを取り上げると、ウルが手際よくそれを蓮の首にかけた。
「ごめん、いろいろ分からないんだけど……なんで俺が神子? んでもって、なんでリコスの紋章がこっちにもあっちにもあるんだろう」
なんとか言葉を発することはできたが、リコスはアルラと比べ物にならないくらいの大国だという。訳が分からずにいると、「落ち着け」とウルが声をかけてくる。説明は腹ごしらえをした後だとまで言われて久しぶりの食事にがっついた後、ウルと向き合うことになった。
「どうしてレンが神子なのか、と問われたら、それはあのオオカミ――リコス神が選んだから、としか言えない。恐らく、最初からレンは選ばれてこの世界に招かれたのではないか。だが、アルラ側に現れてしまったことでリコスの紋章が発現しなかったのだろう。アルラに来てしまったのは……私がいたから、かもしれない」
そういえば修に最初誘拐されかけて山賊もどきに襲われた時からジンジャーが助けに現れてくれたのを思い出す。最初から、ジンジャーは蓮のピンチに現れていたのだ。国境を越えているのに――他の神の領域だと、危険があると分かっていながら。
「ウルがいたから、ってどういうこと?」
「……私がエイデス家の養子であることは聞いていると思う。私の本当の名は、ウル・ヴァント・リコス。エイデス家は母の実家で、養子というのはアルラ国で一々身分の確認をされるのが面倒だったからそういうことにしていた。本来私はアルラでは爵位を持てない。故に『騎士』をアルラ王から授かっていた」
ウル・ヴァント・リコス、と呟くように繰り返してから、鈍い蓮もすぐに気づいた。リコスの紋章を持ち、リコスの姓を持っている――。
「私は現リコス王の正妃が生んだ子どものうちの、生き残った最後の一人だ。豊かで広大な国を統べる王の地位を誰もが欲しがる。リコスはアルラと違い女性も身分とかはあまり関係がない。私の母は正妃だが、他の妾妃たちは己の子を王にしたいがために謀略を企て私の兄たちを殺し――私も毒を飲まされ殺されかけた。生き延びるために、母の実家であるエイデス家を頼ってアルラへ逃れたのだ。母の願いもあったし、まだ幼かった私もそこまでして王位が欲しいとは思えなかった。……私を可愛がってくれた兄たちのことを、静かに悼む場所が欲しかったのもある」
「だから、神様に生涯身を捧げようと……思った?」
出会って間もないころから、何度となく自分の身は神に捧げるつもりだったとウルが言っていたのを思い出す。それは蓮が想像していたよりもずっと、かなしい誓いに思えたがウル自身は「そうだ」と軽く頷き返す。
「レンがリコスの神子とは分からなかったが――だが、そういう運命だったのかもしれない。私も、もう逃げない。このリコスで、レンを他の誰にも譲るつもりはない」
静かに動いたウルが、誓うように蓮の胸元近くにある紋章へと口づけた。くすぐったくて身を捩らせると、ゆっくりと寝台に押し倒される。
「……ずっと、お前の目が開かないのではないかと、不安だった。レン、愛している。これからも、私の伴侶でいてくれるだろうか?」
「あ……わ、俺っ、俺なんかでよければ……末永くよろしくお願いします」
深い蒼の瞳に見つめられて、思わず身を起こして寝台の上で正座になった蓮が深々と頭を下げると、ウルの笑い声が聞こえる。
「なんか、などではないだろう。数千年ぶりに現れた、リコス神の神子殿」
「うわあ、俺もひらっひらの布を巻かれてパレードとか出なきゃいけないのかな」
最初に修を見た時の、あの衝撃を思い出して蓮がげんなりとするといよいよウルは笑い声をあげた。
「あったな、それも。……だが、お前を必要のない者たちにまで晒すことは考えていない。父母や神殿には報告しなければならないが、またお前が連れ去られたりでもしたら私が狂いそうだ。今度は半殺し程度では済ませられる気がしない」
「俺は表に出なくていいからね、本当に。……って、誰を半殺しにしたの?!」
慌てている蓮に、まだ口元に笑みを残したウルが口づけてくる。その腕に、以前渡したブレスレットが嵌っていることに気づいて余計恥ずかしい気持ちになりながら蓮は目を瞑った。本来のウルが身に着けるような装飾品と比べたらきっとオモチャのようなものだろうに、これが大事だと言わんばかりにずっと身に着けてくれていたことに気づいてしまったのだ。
口腔内をじっくりと犯されて、それから首や胸の飾りへと形の良い唇が動いていく。
「あ、あ……っ」
小さな飾りを舐られると思わず身体が跳ね上がる。恐る恐る目を開いたが、どこに視線を向けていいのか分からずにいると、不意に顔を上げたウルの唇に噛みつくように口づける。舌を絡ませている間もウルの指が蓮の下肢へと愛撫を仕掛けてきて、蓮はびくびくと身を震わせる。
「く、苦し……」
「……ここは気持ちいいと泣いているが」
何度もウルに開かれた後孔を濡らされながら、半分起ちあがりかけていた蓮自身にも触れられて快楽を抑えるのが一気に難しくなる。
「先に出すか?」
「うわあああ、そういうこと、言うなよっ! い、いから……もう、ウルのを入れて?」
指が引き抜かれて、指とは比べ物にならないくらいに熱く硬いものがゆっくりと蓮の中に入り込んでくる。仰向けのまま受け入れるために呼吸を抑えようとすると、また口づけられてから一気に穿たれて蓮は掠れた嬌声を上げた。明るい部屋で恥ずかしい、という気持ちも確かにあったはずなのだが、ウルに煽られてしまうとあっさりと快楽の前に負けてしまう。
「ん、……あっ……」
肌が触れ合う音や、濡らされた上にお互いの体液でぐじゅぐじゅになっている部分の濡れた音や、それらを耳にしながら蓮は寝台の上の方を掴んでいた腕をそっとウルの背に回した。安定感がないのが怖いかと思ったが、ウルの体温が高いのを感じてしまう。
「……やぁッ、…う、ウル……そこ……ッ」
角度を微妙に変えられると弱い。段々息が乱れていく蓮の汗ばんだ柔らかい髪を、愛おし気にウルが触れてくる。それもつかの間のことで、どんどんと激しくなっていく動きに喘ぎ続け、もう触れられていないはずの蓮のものが過ぎた快楽に耐えられずに白いものを吐き出し――それから、蓮の中にウルの熱いものが迸るのを感じた。
「ずっと、私とともにいてくれ」
まだお互いに呼吸が荒いまま、口づけられて耳元に呟かれた言葉に、蓮は顔を赤くすると――コクコクと頷き返したのだった。
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