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イチャイチャ、もしくは漫才

昨日の条件通り、今日は病院に来た。 一人になりたくて仕方なかったのに、神谷の気配は意識があるうちはずっと感じてた。そして、目が覚めても神谷がいて。 でも、不快に思わない自分がいた。 不快感を発する気力すら沸かなかっただけかもしれないけど。 診察結果はオレの体も胎児も異常なし。 それを聞いてほっとした。 思わず隣で同じく安堵している男を見た。 同時に視線が合わさる。 「よかった。貴方の体もこの子も、なんともなくて」 と、オレの腹に手を当てる。その手にオレも手を重ねていた。 「少し疲れただけだったんだよ。久しぶりに兄さんに会ったから緊張したのかも」 「疲れたなら直ぐ言ってください。大切な体です」 「心配しすぎなんだよ。この子だってオレだってそんなに柔じゃないっての」 「わからないでしょう。安定期といっても健常者とは違うんですから」 「そうだな。この体に何かあったらこの子が危ないもんな」 「貴方のことも純粋に心配なんです。大切に想っているこの気持ちをどうか分かってください」 「…………………………50点。 口説き落とすには程遠いぞ」 「手厳しいですね。 ───────── 心臓は結構煩く騒いでるようですが?」 「おいっ!こら、離れろ!胸に耳をくっつけんな!」 「ははは。満更でもなかったりとか…?」 「違う!いきなり引っ付くから驚いただけだ」 「お顔も少々赤いような」 「~っ、うっさい!」 「院内ではお静かに」 大きくないのに通った医者の声にピタリと動きを止めた。 「すいませ………、離れろって!」 未だに引っ付く神谷を引き離して居ずまいを正した。 顔が熱い。 人前でこんなことしてたから………。 え、え? 何の会話してたっけ? 「仲がよろしいようで、生まれてくる子も嬉しいでしょうね。 でも、子供の前であからさまにイチャイチャするのは逆に教育上よくありませんから程々に」 ……………………。 「─── いたっ! ちょっと、なんで髪を引っ張るんですか」 「お前なんか禿げろ」 「長髪の私が見れなくなりますよ?」 「伸ばす気なんてないんだろ」 「………………………私の頼みを飲むなら伸ばしてもいいですが。 例えば、結婚とか」 自分の長髪にどれだけ価値あると自惚れてんだよ。 いや、確かにオレはそそられるけども。 呆れた。 「ちゃんと口説けよ。ズルすんな」 「じゃあさっさと口説き落とされてください」 「お前が口説き落とせ。自分で言ったんだろ」 「貴方が意地張らなきゃいいことなのに」 「オレがいつ意地なんて張ったよ」 「よくわかりませんが、元気もあってなによりです。が、胎教に悪いことは避けてくださいね」 またもやな医者の声に黙る。 数本引っこ抜いてやろうとしたのに髪サラッサラで指通り抜けてった。 変に完璧なとこが腹立つ。 「それと、そろそろ入籍もした方がいいですよ」 「程遠いですね」 「間も無くです」 オレたちのセリフは見事被った。 どの口が間も無くなんて言えるんだ? まともに口説けもしないくせに。

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