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「だったらいいけど」  眉をひそめたまま「でも、さっきからずっとぼんやりしてる」と言って唇を尖らせた。 「ごめん」  謝ると、どこも悪くないのならいいのだと、みゆきは表情を緩めた。  一通りの説明を受け、案内係の女性に見送られてロビーに戻った。時刻は六時を回っていた。 「ねえ。この後、どうする?」 「え? この後……?」 「上のレストランで食事をして、せっかくだから、このホテルに泊まってみましょうよ」 「ああ……」  いいね、と言いかけて、首を振った。 「あのさ……、ここで別れたら、まずい?」 「え……?」 「さっきの友だちと、少し話したくて」 「今日じゃなきゃダメなの?」  頬を掻いて頷いた。 「十一年ぶりなんだ」  部屋の向こう側の茶色いデスクに目をやってから、視線を戻す。みゆきがため息を吐いて「仕方がないわね」と言った。 「ごめん」 「いいわ。ママに来てもらって、ラウンジでお茶でもして帰るから」  ロビーの横のティーラウンジにみゆきを送り届け、もう一度「ごめん」と謝った。 「今度、埋め合わせをしてね」 「ああ。必ず……」  みゆきに見送られ、コンシェルジュデスクに戻る。 「翔……」 「はい。お客様。何かご用件でしょうか」  人形のような顔で微笑まれ、肩をすくめてみせた。 「翔、ふざけるなよ」  「今、仕事中なんだけど」  そうか、と頷く。それは確かに祐介が悪い。 「仕事、何時まで?」 「なんで?」  少し話がしたいのだと言った。仕事が終わるまで待っているからと。 「いつ終わるかわからないよ?」 「待つよ」  間を置かずに答えると、「嘘だよ」と笑われた。 「あと少しで上がる。ここで待ってて」  ホテルのメモ用紙にサラサラとペンを走らせ、「すぐそこのカフェ」と手渡す。全国チェーンのコーヒーショップへの簡単な地図が描かれていた。  四角い小さな紙を手に、祐介はデスクの前を離れた。  ホテルを出ると、暗くなった空からまだ雨が降っていた。庭園灯が作る明かりの中を、細い糸のような光が繰り返し落下する。
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