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40【王殺し】

「ここにはたくさんの人がいるだろう。でも僕の姿を見てくれる人も、僕の話を聞いてくれる人も、誰一人いないんだ、もうずっと。僕はみんなの言うとおりにしていれば良くて、女官の言うとおりに礼儀正しくして、宰相の言うとおりに国民に接して、筆頭賢者の言うとおりに祈りを捧げていれば、それだけでいいんだって。ずっとそう思ってたんだ」  舐められていない方の手で【少年王】は【王殺し】の体を優しく撫で続ける。  この少年に触れられると、これまで感じたことのないような温かい感覚が体の奥から湧き上がり、【王殺し】はとろんとした、妙に寂しくて優しいような気持ちになってしまう。  だが、次に【少年王】が口にした言葉は【王殺し】の温かい気持ちに冷や水を浴びせた。 「でもね、このままだと僕は死ぬんだ」  驚きのあまり毛が逆立ってしまい、動揺しているのがばれてしまった。【少年王】は【王殺し】の反応に敏感に反応した。 「ごめん、物騒なことを言ったからびっくりしちゃった? 君はやっぱり賢いんだな」  だが、それは間違いだ。【王殺し】が動揺したのは【少年王】の言葉が物騒だからではない。自分が【少年王】を殺しにきたことがばれたのかもしれないと思い、恐ろしかったのだ。  そういえば今朝、女官たちもさかんに「王都にやってくる【王殺し】」について噂していた。【少年王】は賢いから、獣の正体に気づいていたとしても不思議はない。  二人のあいだにかすかな緊張が走り、【少年王】は小さなため息を吐いた。 「このまま雨が降らなければ、僕はきっと焼かれてしまう。僕の前にいた【旧い王】も雨を降らせることができなくて、焼かれたんだって。王が正しい心を持っているなら雨が降るはずで、国が渇いて苦しむのだとすれば、それは僕が正しくない……悪に取り憑かれているからなんだってさ」  その話の半分くらいは【王殺し】もすでに知っていた。だが、前の王が雨を降らせることができずに焼かれたという話は初耳だ。もちろん【少年王】が彼の前任者と同じように焼かれてしまうことを恐れているということも、はじめて知った。  【王殺し】が元の姿と名前を取り戻そうとするならば、【少年王】は獣に喰い殺される運命にある。だが例え【王殺し】が彼を殺さなかったとしても、このまま雨が降らなければ結局のところ【少年王】は焼かれて殺されるというのだ。  一体この国の王とは、何なのだろう。  元々は王を殺すつもりでここに入り込んだ【王殺し】だが、【少年王】の人柄に触れるにつれて戸惑いを覚えるようになっていた。  戸惑いは今では明確な迷いに変わり、目の前の少年を殺さなければ本当の自分を取り戻すことはできないのだという焦りと、この孤独な子どもを守ってやりたいという気持ちの間で板挟みになる。  そんな【王殺し】の迷いをますます大きくするのは【少年王】の絶望的な言葉だった。 「僕はでも、これ以上雨が降らないなら、もう死んでもいいと思ってるんだ。これ以上祈り続ける自信がない。祈りの時間は、僕には辛すぎるよ」

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