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オレ、嵯峨専務が……好きです

+ 「は? え?」  準備って? 手伝いって?  半裸の嵯峨が何を言っているのか分からなくて、柚希は呆然と見上げている。目も口もぱかりと開いたまま、嵯峨の言葉を反芻するものの、やはり意味が理解できない。  背後ではシャワーの流れる音が絶え間なく聞こえる。 「あの……嵯峨専務? 準備って何の事でしょうか?」 「ん? ココ、綺麗にしないといけないんじゃない?」  嵯峨はにっこりと見惚れるような笑みを浮かべながら、柚希の座る椅子の、無意味に開かれたくぼみへと手を伸ばす。 「ふぁ!?」  後ろから伸びてきた嵯峨の手が、接面していない臀部を撫でてきた為、突然の出来事に柚希は素っ頓狂な声で叫ぶ。 「ちょ、まって、専務っ、やぁんっ」 「柚希のエロい声、可愛いね」  その間にも嵯峨の指は柚希の臀部のあわいを割いて、隠された蕾へと侵入してくる。  窄まりの周りを緩慢にクルクルとなぞり、一度は冷めた熱が再び腰に溜まりだす。 「ひぃや、んっ、そこ、汚い、んんぅっ」 「実はさ、ここを解したいのもあるけど、柚希に返答してもらいたい案件があるんだよね」 「んっ、あ、案件?」  初々しい蕾の皺を数えるように撫でながら、嵯峨は柚希の耳元で囁く。どうにもこの低い声で囁かれると、体中の産毛が逆立ちそうにゾクゾクする。  これまで本番行為はなかったものの、それなりに愛を耳に吹き込まれたり、蕾を触られたりした柚希は、今まで感じた事のない感覚を憶え混乱した。  案件って、さっきまで仕事の話なんて一度もなかったのに、と背筋を駆け巡るゾワリとした震えを抱えたまま、何とか嵯峨との会話を思い出そうとするも、断続的に与えられる焦れた愛撫が、柚希の思考を散らしていく。 「俺、さっき柚希に対して、恋愛対象だって言ったよね? ねぇ、柚希は? 俺が嫌い?」  ヒヤリ、と蕩けそうになった思考が急速に冷え固まる。  なぜ再びそんな事を。柚希は熱い湯を浴びてる筈なのに、体までもが冷たくなる気がした。  確かに湯船の中で、嵯峨の言った言葉を反芻して、無意識に言葉に応えるような呟きをした。だけど、こうして再度問われるとは思わず、柚希の頭の中は真っ白に染まる。 「オ、レ、は……」  あれだけ官能に染まっていた部分が、今はただ嵯峨の指が接触してるとしか感じない。  一瞬にして現実に引き戻された柚希は、肩越しに嵯峨の顔を見つめる。 「ねえ、柚希は気付いてたんじゃないかな。俺が入社してから柚希を特別扱いしてるって事に。ま、周囲を牽制する為っていうのもあったけど。自覚してない柚希は知らないと思うけど、君、割と男女ともに人気あるんだよ」  うっそりと微笑み、嵯峨は蕾の集束を焦らすように爪でカリカリと引っ掻かれ、言葉の意味と嵯峨の指のもどかしい動きに、柚希はもぞりと腰を揺らす。  嵯峨の言う通り、初対面からさほど時間を置く事なく、彼との接触が増えたと認識している。  始めはよく営業部の廊下で顔を合わせるな、って程度だった。それは前の会社で営業をしていたから、昔の畑が懐かしいのでは、と思っていたのだ。  何度も声をかけられる内に、週の半分近くを昼食を取るようになり、就業後に食事に行ったりも数回あった。嵯峨が出張に行けば、こっそりとお土産をくれたのも一度や二度の話ではない。  明らかに柚希は自分が嵯峨から特別視されてる自覚が出てきたものの、もし自意識過剰によるものだったら、とてもじゃないが目も当てられない。  しかも自分は恋人持ちなのだ。他の人に心が揺れ動くなんてあってはならない。  古風と言われようが、絆されて付き合っている以上、恋人を裏切る事はできなかった。  嵯峨の態度を不思議に思い、柚希は他の第二や第三のチーフにそれとなく尋ねたが、彼らには専務の誘いどころか接触も、最初の対面だけだったらしい。  逆に柚希が嵯峨と交流している事に、驚きと羨望の眼差しを向けられてしまった。  まさか、と柚希は一瞬期待に胸が熱くなった。  しかし柚希には恋人が居た。執拗に迫られてなし崩し的に交際するようになったが、それでも恋人を裏切る事はできない。  恋に奔放な人なら、すぐさま嵯峨に乗り換えたのだろうが、柚希にはできなかった。  柚希は嵯峨に対する想いに蓋をして、ただの上司と部下の関係でいようと決めたのだ。  それなのに、恋人には浮気され、嵯峨には会社での関係が瓦解するような優しい慰撫と言葉を囁かれ、自分の思いとは裏腹に本音が、ずっと偽っていた心の蓋を開く言葉を告げた。 「オレ、嵯峨専務が……好きです。出会った時からずっと」  自然と溢れた涙と言葉は、急に熱い何かと、暖かい何かに塞がれ、それが嵯峨のモノだと分かると、柚希はうっとりと目を閉じた。  くちゅくちゅ、と口内を執拗に犯され、余りの気持ち良さに目尻から涙が零れ落ちる。  さっきと同じキスなのに、自分の心を解放しただけで、こうも感じてしまうのだろうか。  それとも直接肌が重なっている事が、自分の欲情を煽っているのだろうか。  舌先を互いに擽り、ねっとりと絡ませ合い、混じった唾液を塗り付け合い、喉奥まで侵入してくる嵯峨の舌を受け入れる度、柚希はくぐもった声で応える。  これまで交際した男性達ともキスをした事は沢山ある。しかし、そのどれもが微かに嫌悪感を感じていた。  反して、嵯峨との口づけは擬似性行為のようで、ただただ気持ちいいしかない。  次第に溜まっていく唾液すら甘く感じて、柚希は抵抗もなくコクリと飲み込んだ。 「柚希。ちゃんと抱いてもいい? 辛くないように優しくするから」  甘く囁く嵯峨の瞳は欲情に濡れていて、それがとてつもなく嬉しくて「はい」と、満面の笑みを浮かべた柚希は、嵯峨の首に縋り付いた。

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