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絆 2

「もし子どもが出来て、学校を辞めて、どうやって育てると? 久我山君は一緒に育ててくれると言ったのかい」  答えない光希に、構わず達臣は続けた。 「育てられると思ったかい。子どもを抱えた中卒の子では、ろくな仕事もない。もし子どもがオメガであったら、どうやって守る気だったんだ」  光希はうるさいと内心で思いながら、ぎゅっとシーツを握った。 「もしそんな子が施設行きになれば、光希が受けた屈辱とは比べものにならないくらいに酷い目に遭うかもしれない。ただ単に子どもが欲しいというのは、光希のエゴだ。生まれた子どもの事を、きちんと考えたのか。最低でも、慶太は分かっていた。だから、光希に恨まれてでもあんな事をした」  その通りだと光希は分かっていた。それは、久我山に言われた時から分かっていた。それでも、頭で分かってはいても、どうしても薬を飲みたくなかったのだ。 「でも、父さん。俺は、久我山さんが好きなんです」  光希は声を絞り出すように言った。 「わかってるよ。光希、分かってる」  達臣が光希の頭をそっと撫でた。 「父さんにも覚えがある。光希くらいの歳の頃だ。凄く好きな子がいた。その子のためなら死ねると思ったし、誰かを殺すことも出来ただろうね。若かった」  だから何だ。光希は思う。そんな話をして、何になるのだ。 「私はね、光希。光希が望むのなら、久我山君と一緒になっても良いと思っている。だけど、今のままの君で、それで久我山君が受け入れてくれるのかい」 達臣の言った言葉は、光希が想像しなかったものであった。 「高校卒業して、久我山君のところに行って、それでどうするんだ。今、彼が大変なのは聞いただろう。二年後だってまだ大変かもしれない。そんなときに、何も持っていない、何も出来ない光希が行って、どうするんだ」 「……」 「光希はただ、久我山君が好きだ、一緒にいたい、久我山君との子どもが欲しい、そう言っているが、それだけだ。一緒に居るための努力も、子どもを育てるためのビジョンもない。私から見たら、子どもが店先でおもちゃを欲しいとごねているようにしか見えない」  優しい口調であったが、達臣の言っている言葉は辛辣であった。 「パートナーに楽をさせてあげたいという思いは、何も久我山君にだけ必要なわけではない。光希にも必要なんだ。そのためには、高校を卒業して、大学できちんと学んで、仕事について、それで久我山君と共にやっていけばいい。そんな事も出来ないようであれば、久我山君と一緒になる資格は、光希にはないよ」   光希はそれに、ぐっと歯を食いしばった。悔しい。単純にそう思った。  達臣は光希の頭を、変わらず撫でている。          

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