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絆 7

「かしこまりました」  橘はお辞儀をして部屋から出ていった。 「ありがとう。良かった」  光希はほっとして笑った。 「久我山のだろ。一人で勝手に返しに行くのはなしだよ」 「分かった」  慶太は笑って光希の頭をぽんぽんと軽く叩いた。 「良かった。久しぶりに本当の笑顔が見れた」  慶太の言葉に、確かに心から笑ったのは久しぶりだと思って、今度は苦笑した。 「兄さん、晃希、やばいよね。正直言って怖い」 「あぁ、わかってる」  慶太は晃希の状態を分かっている。いや、こうなる前から、分かっていたのだろう。慶太は聡い。気がついていない訳はないと思った。 「怒らないで聞いて。俺、この家やっぱり出た方がいいと思う」 「怒らないよ。光希がそう思っても仕方が無い。俺のことも恨んでいるだろうし、晃希のことも不安だろう」 「俺は兄さんのしたこと許せないけど、それでもさっきまでは、この家で兄さん達と一緒に暮らしていたいとは思ってた。だけど、やっぱり晃希のあの態度、尋常じゃない」  慶太はしばらく黙っている。その顔を見ると、何かを考えているようであった。 「あと1年も経てば、落ち着くんじゃないかって、そう思ってる」 「じゃあその1年は別に暮らした方がいいよ。俺のためにも、晃希のためにも」 「分かってる。光希の言うことはもっともだ。だけど、もう少し様子を見させてくれ。光希から俺は目を離さないし、夜寝るときは部屋に鍵をかけて寝ればいいから」 「でも、学校が始まったら兄さんの目は届かない」 「取り合えず夏休み中だけでも、様子を見よう。父さんも言ってただろ。晃希はとにかく混乱している。混乱して、落ち着かないうちに色々と起こってしまった。まだ幼い精神ではついて行けていないんだ」 「そうだよね。きっと、そうだ」  光希は自分に言い聞かせるように言う。光希も、出来れば晃希と仲良く出来れば良いとは思っている。 「晃希は、光希を失ったことの痛みを、光希を得ることで埋めようとしている。それしか方法を知らないんだ。まだ世間知らずで幼い」 「いや、晃希はそれ以外の方法は知ってるよ。俺なんかよりも賢い。だけど、知っていてもそれを選択しないだけだ。そんな自分を全部分かっていて、それでも、それしかないと思い込んでいるだけなんだ」  何でも出来て、友人も沢山いて、何でも持っている晃希の方が、実は光希よりも孤独なのかもしれないと思う。  心に穴が開いているのは光希も晃希も同じだろう。しかし、それを久我山によって埋めた光希と違い、晃希はそれを埋められる物にまだ出会っていないのだ。  本当に好きな人や、夢中になれる物に出会えれば、晃希だってきっと変わる筈だ。しかし晃希は、それを敢えて探すことはしない。光希が自分の心を満たしてくれる物だと信じているからだ。頑固で、思い込んだらそれ以外はないと思うのは光希と同じで、変な所が似ている。 「もし兄さんの言うとおり、時間が経てば晃希が落ち着いて、もっと視野が広がるって言うなら、それなら俺も待つよ」  慶太は光希の頭をぐしゃりと撫でた。 「ありがとうな」  慶太の言葉に、光希は頷いた。          
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