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第21話 九〇日目  -10/10

■   今日も今日とて、時雨は匡伸のアパートに来ている。  外では、雨がしとしと降っている。  七月に入ったと言うのに、梅雨はまだ終わりそうになかった。 「そう言えば、あのバンドの曲を聴きましたよ」  時雨が口を開く。 「あのバンド……もしかして、メメント・モリか?」 「はい」  時雨が頷く。 「どうだった?」 「『別れ歌』と言う曲が好きでした」 「あー、一番売れてる奴な」  メメント・モリは、ちょっと悲しい曲を歌う事が多いバンドだった。  匡伸は昔からのファンで、よく聴いている。 「匡伸さんはどの曲が好きなんですか?」 「俺は、『亡霊の里帰り』かな」 「それはまだ聴いた事ないですね」 「CD貸そうか?」 「え、良いんですか!」  時雨が目を輝かせて喜ぶ。 (あ、つい、趣味の話が楽しくて、言っちまった) 「ちょっと待ってろよ」 (けど今更、やっぱ貸さないって言うのも変だよな)  棚からCDを取り出す。  最近はCDが売れないらしいが、CDの中には特別な応募券が付いている事が多いので、なるべく買っている。 「ほら」 「ありがとうございます」  時雨が大事そうに受け取る。 「ライブDVDあるけど観るか?」  棚からついでに持って来た。 「あ、是非!」  時雨が喜ぶ。 (時雨が今、喜んでるのは俺に対してなのか、このDVD見る事に対してなのか、どっちなんだろうな)  匡伸は、DVDをノートパソコンに入れて起動する。  そうすると、男二人で隣りあって画面を見る事になる。 (俺、今、自分の首を自ら絞める状況にいないか?)  真っ暗な画面に歓声と共に、ギターの音が響く。 (いや、けど、こいつと『話す』って事は『友人』になるって事なんだよな……)  耳に心地よい、ボーカルの声が聞こえる。 (ちらっと時雨を見る)  時雨は大人しくDVDを見ている。 (こいつが俺の事を『殺さない』なら、普通の友人として扱えるんだけどなぁ……いや、しかし、水永の件では本気で俺の事を心配してたみたいだし……愛情の空回り方が凄いんだよな……)  出そうになるため息をぐっとこらえる。  時雨と一緒にいると、よくため息をついてしまう。 「匡伸さん、そう言えば八月にメメント・モリのライブがあるの知ってますか?」 「あー、夏のライブな」  知ってはいる。しかし、時雨関連で四月からずっとゴタついていたので、ライブに行くのは諦めていた。 (引っ越しで余計な出費もあったしな) 「実はチケット申し込みしたので、一緒に行きませんか?」 「へっ!?」  突然の申し出に匡伸は動揺する。  時雨は真っ直ぐこちらを見ている。   彼の目は澄んでいて、緊張の様子も見てとれた。 (これ、断ったら、絶対にヤバイ奴だよな)  断った瞬間に時雨の目はいっきに淀むだろう。 「ライブっていつだっけ」 「七月二〇日の日曜ですよ」  日曜なら匡伸は仕事が休みだった。断る理由は無い。  生唾を飲む。 (か、覚悟を決めろ、俺)  時雨から逃げないと決めたのなら、もう徹底的に付き合う覚悟が必要だった。 「……わかった。行くよ」  ぐっと腹に力を入れて言う。 「本当ですか! やったー!」  時雨はやわらかい笑顔を浮かべて喜んだ。 (絶対に生きて帰るぞ)  匡伸はテーブルの下でぐっと、拳を握った。 つづく

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