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第1話
「キノコだろ」
「いいや、タケノコだ」
お互いの主張を、お互いが鼻で笑う。
会話だけ聞いていれば、某大手製菓会社のチョコのお菓子の件で争っているように思うが、これはデザインの話なのだった。
国内アパレルメーカー、『株式会社シャイン』のメンズインナーデザイン部署では、現在、キノコタケノコ論争が勃発中なのである。
きっかけは、少しファンシーなデザインの、新しいセカンドラインを作る、という上からのお達しだった。
そのデザインは、下着のみならず、関連グッズやパッケージにも使用予定なのだという。
メンズインナーに付随するものなので、下ネタ系のジョークグッズにも使えるものが良い、との注文を受け、デザイン部署内でコンペが開催されることとなった。
三人一組でチームを組み、デザインを競う。
来 るべきコンペ当日、協議の結果、二つのデザイン案が最終候補に残った。
ひとつは、牧野 弘亮 のアイデアを主軸とした、キノコをモチーフにしたもの。
そしてもうひとつが、このオレ、竹ノ内 祐生 のチームが出した、タケノコのデザインだ。
どちらの案を採用するかで、意見はきれいに二分 した。
甲乙つけがたい、とした部長が、一応両方を上へと持って行ってくれたのだが、やはり採用はひとつのみだと言われ、二週間後に再びこの二案を巡って部内投票が行われることとなった。
二週間の内に、それぞれのデザインをさらに改良しておけ、と言って返却された書類を胸に押し抱 き、オレはチラと隣に立つ男を見た。
オレと同じポーズをした牧野が、じろりとこちらを見下ろしてくる。
険悪な視線が、バチバチと空中で火花を散らした。
ふん、と顔を背け、オレは自分のデスクへと戻る。
そこではオレのチームのふたり……山口と岡山、だけでなく、タケノコのデザインを押してくれた他の社員たちが待っていて、オレを囲んで口々にこれまでの労をねぎらってくれた。
オレはそれに笑顔で応じながら、離れたシマに居る牧野の様子を窺った。
向こうでも同じように牧野がキノコ支持派に囲まれ、華やかな笑みを見せている。
しかし……本当にきれいに分かれたな、とオレは周囲の同僚たちへぐるりと視線を巡らせて、そう思った。
オレのところに集まってくれたタケノコ派は、デザイン部内でも比較的地味な印象のひとたちで……対するキノコ派は、総じて派手な外見の男たちが集 っているのだ。
この部署には、男しか居ない。
男が使うものは、男が一番よくわかる、という社長の意向を反映した結果である(因みに女性のインナー部署の方には、女性しか居ないらしい)。
その、同性で固めた環境ゆえか、キノコタケノコ論争は、お祭り騒ぎ並みの熱を帯びていった。
というのも今回のデザインは、メンズインナー……つまり、パンツを中心に使われることが決まっているからで……。
牧野たちは、ポップでカラフルなキノコが股間部分にばばーんとプリントされた、受け狙いだけれどスタイリッシュにも見える……はっきり言ってしまえば格好いいデザインを打ち出していた。
対するオレたちは、全面にファンシーで小さなタケノコがちりばめられたデザインで、女性でも子どもでも使えそうな可愛らしい仕上がりになっている。
キノコもタケノコも、男性器を連想させる、という可笑 しみもあって、女性が居ないため下ネタに気を遣うこともないメンズインナー部署は、大いに盛り上がった。
そしてその男臭いオフィスでは、この日を境に、牧野率いるキノコ派と、オレの所属するタケノコ派で仁義なき争いへと発展していくのである……。
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