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Second hirose

 最初の出会いから数日後、芳は雑踏の中にいた。すれ違う人々は皆一様に無表情か、どうにも不鮮明で曖昧だ。  だが、どこかの屋台から漂ってくる焼き鳥の香りや、それに混じる人々の話し声、そして地面の固さや肌をじりじりと焼く太陽の日差しは生々しかった。  汗で背中に張り付いたシャツを煩わしく感じながら、滴る汗を拭いもせずに雑踏に立ち尽くす。自分が何をしていたかを思い出そうとするが、指の隙間から砂が零れ落ちるように、掴んだと思ってもすり抜けていく。  足は地面に縫い付けられたように動かない。人が芳の横を擦り抜ける時、邪魔そうに舌打ちする音がしたが、動けないものは仕方がない。  芳はそのままぼんやりと流れる人々の波を見続けた。誰を探すでもなく、待つわけでもなく、動けないならば見るしかないだろうという、ただそれだけで。  どのくらいそうしていたか。やがて暑さの感覚が麻痺してきて、汗が引いてきたくらいの時間は経っていた。  ふいに流れる人々の中から、一人の男が現れたのを見て、芳は思わず声を上げかける。どうしてか、その男だけは他と違って鮮明に判別することができて、大して特徴もない容姿にも関わらず、すぐに数日前のあの男だと分かった。  男の方もまた顔をこちらに向けて、気のせいかもしれないが芳に笑いかけてくる。 「あの……っ」  芳が男の方に手を伸ばし、声を上げた途端。水風船が破れるような音がして空間が歪んだ。  そして再び、意識は闇の中へ。

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