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The last hirose
誰かに呼ばれた気がして顔を上げる。規則的に鳴る機械音のようなものが耳の奥で木霊しているが、それらしいものはどこにもない。
ひどく自分の存在が頼りないもののように思えて、寒いわけでもないのに身震いをした。
「夢占いをしてやろうか」
唐突に現れた友人の一人が、口元だけで笑ってそんなことを言う。
「夢占い?」
「ああ、今のお前には必要だ。だってお前は……」
友人が先を続けようとした時、風が唸り声を上げながら吹き抜け、友人の後ろから男が現れる。
「あなたは……」
すぐに数か月前に会った男だと分かった。男の方に駈け出していくと、友人の気配が霧のように掻き消えた気がして振り返る。
振り返った先で見慣れたリビングの柱時計が目に入り、続いて自分がダイニングテーブルに肘をついたままうたた寝をしていたことに気が付いた。
その時、ちょうどインターホンが鳴って客の来訪を伝える。はっと我に返ってカレンダーを眺めると、その客が訪れる時間を記していた。
相手を確かめるまでもなく分かっていたので、急いで玄関のドアを開いたら。
あの男が微笑みながら両腕を広げていたので、迷いなくその腕の中へ飛び込む。するとそのまま強く抱擁された後、抱え上げられて部屋の中に連れて行かれた。
男とベッドの上で体を重ねると、やはりこうなることが以前から決められていたようにしっくりきて、何よりも極上の幸福感を得られた。
いつまでも男との行為に溺れていると、ふいに耳の奥で再び音がした。今度は人の声のようだ。
「残念ですが、……」
「そんな、なんとかなりませんか?」
続いて、いくつかやり取りする声が聞こえた後に、嗚咽のような音がした気がする。
肩を揺すられて男の方を見ると、ひどく悲しそうな、不安そうな顔をしていた。
男の口元から言葉が零れ落ちる。
「ごめんね、僕のせいで」
その言葉の意味を理解する前に、酷い眠気に襲われて闇に落ちていく。
いつからか、ここは現実ではないと分かっていた。男に会いたいがために飲み続けた薬が限度を越してしまったのだろう。
闇の向こうで男が泣いている。今度こそ本当の覚めない眠りに入ってしまうのだと知り、芳は最後の瞬間、一筋の涙を零した。
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