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美少年と野獣

背中を刺されて病院に搬送された俺は、三日間意識を失っていた。 幸い命に別状はなかったものの、それから三週間の入院を余儀なくされ、同じ病院に入院していた貴雄と文人は先に退院していった。 田中は当然ながら退学処分になったと担任から聞かされたが、俺が知りたいのはそんなことではなかった。 紅は退学したんだろうか。 入院中一度も見舞いに来ることはなかったし、連絡も一切こなかった。 貴雄も文人も紅については何も言わなかったし、俺から尋ねる勇気はなかった。 そんなこんなで退院の日を迎えてしまい、兄貴の運転する車に乗り込んだ俺は、既に自宅へと向かっている。 スマホの画面に表示された紅の連絡先を見つめながら、何もできずにいる。 「おい暁穂」 「何?」 「……暗っ」 「……」 「メシどうする?退院祝いにお兄ちゃんが好きなモン食わせてやるよ。優しいだろ?」 「食欲ないからいい」 「ははっ、冗談だろ?三週間病院のメシ食ってた育ち盛りの青少年がそれはない。肉か?肉だろ?よし、焼肉行こう」 「いいって」 気づけばため息ばかりついている。 珍しく俺に優しい兄貴が鬱陶しいってわけじゃない。 俺は三週間も連絡してこなかった紅に、一度も会いに来なかった紅に苛立っているのだ。 そしてそれ以上に、もしかしたらもう二度と会えないんじゃないかという不安に押しつぶされそうになっている。 「お前、もしかして彼女できた?」 「は?できてねーよ」 「じゃあ好きな奴できた?」 「いねーよそんなの」 「ほぉー……なるほどねぇ」 何故かニヤついている兄貴を殴りたい衝動を抑えながら、ゆっくり目蓋を閉じる。 そのままうとうとしはじめた俺の手から、するりとスマホが滑り落ちた。 「暁穂、起きろ」 「……ん」 ……は? 目を開けると、何故か紅の自宅の前に着いていた。 意味が分からず兄貴の方を見ると、珍しく真面目な表情で俺を見ていた。 「俺が病院に着くまでついててくれたんだけどさ、紅君が」 「……」 「もう暁穂とは関わらないから許してくれ……とか言われたんだよね。まぁこれは口止めされてたんだけど」 「……あっそ。だから?」 「治療費払うからって言われて連絡先渡されてたから、来てみましたー。まぁ治療費の件は断ったけど」 「……何が言いてぇんだよ?」 「いやぁ、紅君の泣き顔が可愛かったからもう一回見に行こっかなぁーって」 「……あ゛?」 思わず兄貴を睨みつけると、意外にもその表情は真剣なままだった。 「いいよねー、青春って」 「は?」 「さっさと行けよ。こっちは死ぬほどからかいたいのを必死で我慢してるんだからさー」 「……ありがとう」 「何ぃ?聞こえなーい」 「……チッ。さっさと帰れ」 勢いよくドアを閉めると、兄貴の車はすぐに発進した。 紅の自宅の大きな門の前に立った俺は、意を決してインターホンを押した。

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