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第19話/side玲

三日三晩目を覚まさなかった凜のそばにつきっきりで過ごした俺の前に現れたのは、憔悴しきった様子の母だった。そして俺には何も言わず、目覚めて間もない凜を連れてあの家を出て行った。 引き止めることはできなかった。幼いながら自分の家庭が普通でないことには気づいていたし、逆らうことなど許されないと分かっていた。 父も帰ってはいたが、事情は聞けなかった。元々話したことなどほとんどなかったからだ。祖母にも聞ける雰囲気ではなく、結局俺は使用人から事情を聞いた。 あの後近所の神社が放火され、焼け跡から伯父の死体が見つかった事。その翌日、伯父を殺したと綴った遺書を残し、伯母が自殺した事。そして俺たちが離れにいる間に、身内だけで二人の葬儀が行われた事などだ。 あの家が古くからの名家であるのは周知の事実だったが、その歴史のぶんの闇の深さを、底の知れない一族の恐ろしさを、俺は改めて思い知らされた。 それから何事もなかったように、俺は日常生活へと戻っていった。……否、そうせざるを得なかった。俺が伯父を殺した事は完璧なまでに隠蔽され、被害者である凜はあの家を去り、あの夜の事は初めからなかったことにされてしまった。 だが悪夢のようなあの光景は、一瞬たりとも俺の頭の中から消えることはなかった。勿論あの男への憎悪も──。 普通の生活に戻ることなど、もはや俺には不可能だった。あの日言葉も交わせないままに別れた凜への想いは、日に日に募る一方だった。 そうして暗い数年間を過ごした俺は、ついに義務教育を終え、凜のいる東京の高校へと進学した。 凜と同じ高校を選んだのは決して偶然ではない。手の届く範囲にいれば、凜の方から会いに来てくれるのではないかという期待はあったが、それ以上に怖かった。あの夜の事で、凜は俺を恨んでいるに違いないと思っていたからだ。 だが再会してみると、凜はあの夜の記憶をすっかり失くしていた。 「……今でも殺してる……毎日、毎晩、何回も……でもあいつは死なない。……ずっと……お前を……」 失くしたままでいればよかったのだ。なのに俺は、自分の罪の重さに堪えきれずに──ただ自分が許されたいがために、こうして罪を打ち明けてしまった。 「……お前に触れたい……」 抑えきれない性的衝動と、幼い日の尊い思い出が交錯する。 「……犯したい……」 あの日の伯父は、今の俺だ。 「……もう殺してくれ……俺も……あいつも……ッ……」 滲んだ視界に、あの頃と変わらぬ儚い笑みが映った……──。

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