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第20-4話●あとひとつ足りないもの

 ずっと繋がり続けても足りないと感じてしまう理由を、俺の頭よりも先に体が理解する。  ついさっきまで落ち着いていた疼きの波が、俺の中で勝手に激しくうねり始めてしまう。  この体も求めているんだ……この行為の本当の目的を果たしたい、と。  一気に何度も絶頂を迎えている時のような熱が沸き上がり、火照りで俺から思考を奪おうとしてくる。このまま流されて後先考えず、発情期の残り期間を過ごすことができれば――想像するだけで多幸感が膨れ上がる。  既に番となっているのだから、いつ子供ができてもおかしくはない。  今は敦士が学生で、俺はオメガへの転身後の経過観察で、俺が妊娠すれば多方に迷惑をかけることにはなる。でも、これからの人生設計の予定が狂うだけで、子供を絶対に作ってはいけない訳じゃない。  早く敦士を満たしてやりたい――俺の望みはそれだけだ。  だからこの誘惑に乗ってしまいたくてたまらない。おびただしい快楽のその先にあるものに手を伸ばしてしまいたい。けれど――。  俺は敦士の首に腕を回すと、柔らかくしがみついた。 「……俺さ、今まで研究に打ち込み続けてたから、あんまりお金使ってこなかったんだよ。だから……すぐに子供作っても、やっていける準備は最低限整ってる」 「じゃあ――」 「でもな、準備万端でもバタバタして大変なことになるのに、さらに大変なことになるのは予想がつくだろ? ……敦士は今まで苦労してきたんだ。敢えて苦労すると分かってる道を選ぼうとするなよ」  普段よりも理性が効きにくくなっている分、安易に本音が漏れやすくなっているんだろう。ワガママを強請る子供を宥めるように、俺は敦士の背中を叩いてやる。  敦士から息を詰める気配がする。それから俺の肩元に顔を埋めて、首を横に振ってきた。 「……今がいい」 「敦士、あのな――」 「これが現実なんだと思えないんだ……今この瞬間にも目が覚めて、ひとり暗いバスルームの中、自分の体を抱えながら苦しんでいるんじゃないかって……」  今まで苦しみ続けた月日が敦士に深々と刻み付けた傷を、俺は目の当たりにする。  アルファの衝動を抑える……一度でも味わえば発狂しかねない苦しさ。それを何年も耐えてきたのだ。心が無傷で済むはずがない。  本能と心の傷が合わさって敦士に焦りが生まれている。  根が深いな……と思いながら、俺は敦士の頭を抱き込んで撫でてやった。 「夢でも幻でもない……俺はここにいるし、敦士と繋がっている。もしお前がここじゃないどこかへ行ってしまったとしても、俺は追いかけて敦士のいる所へ行くから……」 「智輝さん……」 「俺を信じて欲しい……俺は敦士から絶対に離れないし、離さない」

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