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第13話 蜜月(ハニームーン)は薔薇の花びらを添えて13

 発情期(ヒート)に触発されたのは事実だが、インヴァネス侯爵はあの晩、“このΩを絶対に逃がさない”という並外れた決意と打算をもって、ミリアムの(うなじ)を咬んだのである。  ミリアムが男性Ωであることを否定的に感じたことは一度もない。 ぷるぷるとした可憐な男性器も引っくるめて、すべて気に入っている。  そもそも、“おちんちん、取っちゃおう”なる発言は、閨の言葉遊びの一つである。 それを本気に捉える無垢なミリアムが、いじらしい。 ……色々と思うところがあり、インヴァネス侯爵の思考は大波津波の大波乱であったが、口から溢れた言葉は単純(シンプル)であった。 「……ミリアムを愛している。お前に愛されないのならば、わたしは生きる価値もない」  インヴァネス侯爵の悲嘆に暮れる呻きに、開かずの間がようやく開いた。  隙間から警戒心の高い野性動物のように、侯爵の最愛が、眉を寄せたあどけない顔を覗かせている。 「……オーガスタスさま、死んじゃうの?」  真剣な物言いのミリアムに、インヴァネス侯爵は、物々しく返事をした。 「――そうだ。 運命の番 である我々は、片時も離れられんのだ。番契約の時に、心臓も魂も結びついて、わたしたちは一つになったのだからな。 誤解してくれるなよ、ミリアム。わたしは、死ぬことなどちっとも恐ろしくはない。わたしはただ、わたしが死んだ後のお前が心配なのだ。 運命の番 の約9割が、番に先立たれると、遺された片割れも生命を落とすという統計がある。お前はまだ年若い、もしもお前が……」 「死なないで!オーガスタスさま!!」  インヴァネス侯爵の長口上が言い終わらぬ内に、ミリアムは部屋から飛び出てきて侯爵に抱きついた。 インヴァネス侯爵は、ほっと安堵の息を漏らす。  年嵩のαが、二枚舌の腹の底が見えない男であることを、おぼこいΩは見抜けない―― 見抜いたところで、Ωは既にαの腹の中に収められているので、手遅れなのだが。 「死んじゃ嫌だ……おれ、あなたの綺麗な(かお)が好きなのだもの」  ――正気を失っている時でさえ、インヴァネス侯爵の美貌は、妻に抜群の効果をもたらすようだ。  インヴァネス侯爵は乾いた笑みを浮かべながら、(なつ)いてくる妻を片腕で抱え上げて、部屋に戻った。 蜜月(ハニームーン)戦争という名の茶番が、終戦したのだった。

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