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最終話 絆
「熱い、中が熱い……」
下腹部を押さえ、町田が呻いている。あれから、「もう一回だけ、もう一回だけ」と互いに言って、何度も抱き合った。二回目からは、町田も同時に達したので、朝比奈は安堵した。
自分ばかり達していたら猿どころの話ではない。ののしられ、二度とやらせてもらえないだろう。
朝比奈は背を丸め、仰向けになっている町田の下腹部に唇を落としている。終わったあと町田の全身にキスをした。ここが特に震えるとわかったので、何度も繰り返した。
朝比奈の髪を梳きながら、町田がつぶやいた。
「愉しませるつもりだったのに……翻弄されたな」
「翻弄されたのは俺のほうですよ。つらくない、町田さん?」
「気にするな。感じすぎて疲れただけだ」
顔を上げて町田を見つめた。町田は目を閉じていた。さきほどの行為を思い返しているのだろうか。
「抱き合うなら、お互いわがままなくらいがちょうどいい」
「うわ……また、爆弾発言だ」
さっき引いた熱が力を取り戻さないように、朝比奈は深く息を吐いた。
「きみもそう思うから、僕を激しく抱いたんだろ?」
町田がゆっくりと目を開ける。濡れたような瞳には交合の余韻が残っていた。
「えっと、そうですね。乱暴にすれば燃えるかなと思ってガンガンしました。うまくいってよかった」
いいえ、ただ盛っただけです、とは言えなかった。躯を起こすと町田を抱きしめた。
「でも、かなり激しかったですよね」
「ああ。遠慮するな、とは言ったけど……。反省してる?」
「ええ、少しだけ」
「それなら、もっと強く抱きしめてくれないか。ぎゅうって。……まだ、もっと強く」
朝比奈が力も込めても町田は満足しなかった。朝比奈は町田の耳元にささやいた。
「俺が本気を出したら、町田さんは壊れちゃいますよ?」
「僕は丈夫だから壊れない。抱いてみてわかっただろ?」
朝比奈は苦笑いを浮かべて、町田にキスをした。いまは、町田のひとことにこっけいなくらい動揺する。
これからは筋肉だけではなく自制心も鍛えよう。そうすれば、もっと町田が安心できる男になれる。
「町田さん。明日になったら、いっしょに書きましょう」
町田は困ったように笑っている。
「できるかな。腰がすごく重いんだ」
「それなら、町田さんの胸に書きますか。こうやって、いやらしい言葉をたくさん」
人差し指で町田の鎖骨を撫でた。らせんを描きなら、ゆっくりと肌をたどる。
「朝比奈くん、何て書いているんだ?」
字を書く振りをして少しずつ胸の突起に近づいているのに、町田は気づいていないようだ。年上とは思えないくらいあどけない瞳で、朝比奈を見つめる。
こんな曇りのない目で見つめられていたら、いつか自分の牙は抜け落ちるだろう。それもいい。
自分も眩しいほどの光を町田からもらったことになるのだから。
「こういうことをしたいって書いたんですよ!」
足を開いて町田の上に跨り、発情した獣のように腰を振ってみせた。
「あはは、今日はもう無理だって!」
大声で笑う町田の前髪をかきあげ、額にキスをした。
【終】
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