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第5話 今夜もいっしょ

自宅のマンションに着くと、互いに服を着替えた。部屋のクローゼットには、彼の私服も数着入っている。 私はワイシャツを脱ぎながら、彼の下着姿を見た。 白い無地の肌着にチェックのトランクスだった。どちらもゆったりして見える。 「少し痩せましたか」 労わるようにやわらかく抱きしめた。私の胸に顔を埋めて、彼は頷いた。 「夏バテだよ。もう歳だ、体力が落ちてきたよ」 「三十三歳なんて、まだまだ若いですよ」 「二十五の若造に言われてもなあ」 汗ばんで少し湿った彼の髪を撫でた。散髪したてだから毛先が尖っていて、いつもよりも硬く感じる。 もっと深いところを触りたい。 肌着の裾から手を入れてみた。加賀谷さんは逃げなかった。手のひらを押しつけるようにして腰を撫でた。 動かしている手が熱くなっていく。自分の汗で滑ってしまう。情けない。加賀谷さんの肌着を胸まで捲り上げた。 「痛いっ」 「うわ、すみません」 爪が肌に引っかかってしまった。私は手を離した。 脇腹についた傷は、少し赤くなっていた。加賀谷さんは、大丈夫と言って痕を撫でた。 互いに黙った。目を合わせてくれない。照れているだけだろうけど、続きがしにくい。 「加賀谷さん、先にお風呂に入りますか。汗かいたでしょう?」 「あ……そうだな。そうしてくる」 加賀谷さんは浴室へ行った。 シャツを羽織った。脱力してしまう。加賀谷さんに触れていると、自分がいけないことをしているような気がしてしまう。 まっさらな新雪を踏みしめるような気持ちだ。心地よい罪悪感がある。 彼の肌に引っかけた右の人差し指を私は見つめていた。加賀谷さんの肌は痕がつきやすいのか。歯を立てれば、もっときれいに色づくのだろうか。 ここで押し倒したら加賀谷さんは逃げただろうか。 恋人だから当たり前だと思って受け入れるだろうな。 いや、と叫んでも、私に貫かれていたのだろう。どんなに怖くても耐えて、喘ぎながら初めての快感に戸惑うはずだ。 その怯えた顔を見て、私は更に興奮してしまうだろう。 焦らないように、焦らないように。そう言い聞かせながら、私はキッチンへ向かった。 加賀谷さんは、私が作った夕食を残さず食べた。外食よりも味が薄いからおいしいと言っていた。 食べ終わると、食器を洗ってくれた。その間に私は風呂に入った。

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