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第7話 初夜チャンス?
私が浴室から出たときには、加賀谷さんはソファに座ってテレビを見ていた。私に気づくと顔を上げた。
「結構長かったな。のぼせたかと思ったよ」
「少し頭を冷やしていました」
「シャワーを浴びたのか。今日は暑かったもんな」
「……ええ、熱かった」
湯船に入りながら、自分の罪深さに反省していた。射精したあとはしばらく風呂から上がれなくなってしまう。
赤っ恥の熱で、いたたまれなくなる。彼の言う通り、冷水を頭から被ればよかった。
恋人が訪問しているのに自慰をして、直後にその材料、オカズにした恋人本人と平気な顔で対面する。
自分の神経は極太なのか。欲望に負けっぱなしだから、もろいのか。
ひねくれていることだけは確かだ。
テーブルに置いた黒縁の眼鏡に手を伸ばしたら、加賀谷さんが先に取った。
「ありがとうございます」
しかし、渡してくれない。
「ちょっと眼鏡なしでいてくれないか。そんなに視力は悪くないんだろ?」
片手で眼鏡を持って加賀谷さんが近づいてくる。
「見にくいです。返してください」
睨むように彼を見つめた。はっきり表情が見たい。
加賀谷さんは私の頬を触った。撫でながら、何かを呟いた。
眼鏡があれば唇の動きが読めるのに。
「晴之の瞳を見たかったんだ」
きれい、と加賀谷さんは声に出した。目尻に指を当ててきた。触れられたところが、火がついたように熱くなる。
「このつり上がったところが好きなんだ。冷たくて誰も寄せ付けない感じがする」
首筋に息がかかった。それだけで躯が震えた。
「俺だけが晴之に触れるんだ。俺のものだって思うとすごくうれしくなる」
胸が高鳴る。喉が渇いてくる。汗が出てきた。
「私も、こうして加賀谷さんに触るのが好きです」
両手を加賀谷さんの背中に回した。腰に巻いたタオルが落ちそうになったが、加賀谷さんがくっついているので大丈夫だった。加賀谷さんが眼鏡をかけさせてくれる。
潤んだ瞳が私を見上げている。
「晴之。さっきの続き、しないか」
「え、ええっ!?」
予想外の提案に面食らってしまった。この流れは、抱き合うまでの過程だったのか。
「晴之はいやなのか」
「いやじゃない、いやじゃない。……いいんですか」
唾を呑み込んだ。
「ああ。何回も泊まったから、そろそろいいかなと思ったんだ」
加賀谷さんは言ったあとで目を伏せた。顔が赤い。
これは夢なのか。加賀谷さんが自分から誘っている。
「晴之、どうした。苦しいのか」
「ときめきが大きすぎて、胸が痛くなってきました……」
胸に手を当てて、息を吐いた。
「そうか。いきなりだから怖がっているのかと思ったよ」
笑いながら抱きついてくる加賀谷さんを抱きしめた。
怖くはない。獣ではなくやさしい紳士になれるかどうか不安だった。
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