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第10話 え、バレてる?

敏感な口腔の粘膜を舌でくすぐられた。 加賀谷さんから深いくちづけをしてくるのは、久しぶりだった。上手くて翻弄される。 「……ん、晴之……」 加賀谷さんは私の髪を梳いてくれた。 頭を撫でる仕草はやさしいのに、舌の動きは情熱的だった。無意識に躯が跳ねた。 腰が疼いてくる。ベッドの上で悶える私を彼は押さえつけた。 加賀谷さんが顔を上げた。笑っているが、いつもの穏やかな顔ではなかった。 男の色気を漂わせる笑みだった。興奮で潤んだ目で私を見下ろしている。 上体を起こして、加賀谷さんはTシャツを脱いだ。 引き締まった筋肉に沿って、汗が輝いていた。 眺めるだけで、胸の奥が締めつけられてきた。加賀谷さんが風呂から上がったときに、上半身を見た。あのときはこんな気持ちは起こらなかった。 この躯が官能的なことをしていくのか。 どうやって抱き合うかは、私だって知っている。キスで始まって最後にはふたりがひとつになる。でも、キスから挿れるまでの間の動きはよくわからなかった。 「あの……加賀谷さん。こういうときって、どうするのか教えてください」 「それは言えないな」 「そんな、意地悪しないでください」 「これは意地悪じゃないよ。エッチなことは口で説明できないんだ。感じて、覚えていくものなんだよ。それに……」 ジャージを脱ぎ下着は履いたまま、加賀谷さんは覆い被さってきた。 「好きな人のまっさらな躯が汚れていくのは見ていて楽しい。だから、教えない」 「あ……あ」 不意に腰を撫でられ、私は声を上げた。くすぐったいのと似ているけど違う。加賀谷さんの手が動く度に躯の芯が痺れてくる。 「ほら、今はちょっと触るだけでびっくりしちゃうだろ。こういう初心(うぶ)な肉体がどんどんいやらしくなって、やがて抱き合うのが好きでたまらなくなるんだ」 躯をつなげるのって、人の性格まで変えてしまうのか。 加賀谷さんと躯を重ねていくうちに、私はどんな男になってしまうのだろう。一日中、淫らなことを考える人間になるのかもしれない。 今でさえ妖しい想像が頭を離れないのに、これ以上、危なくなっても大丈夫なんだろうか。 「もし……するのがすごく好きになっても、加賀谷さんは私に付き合ってくれますか」 「もちろん。責任とってかわいがるよ」 「よかった」 でも、不安は完全には拭えなかった。 「あの、加賀谷さん。本当に私が変わっても、ずっといっしょにいてくれますか」 加賀谷さんは手を止めて、私を見下ろした。 「ずっと、いっしょにか?」 「加賀谷さんがいなくなったら、どうしようっていつも思っているんです。加賀谷さんに似ている人が、昔、突然いなくなったから……」 「晴之は、その人のことが大好きだったのか」 頷くと、背がきしむほど、強く抱きしめられた。 熱い唇で口を塞がれた。入ってきた舌に応えようとしたのに、唇はすぐに離れていった。加賀谷さんは私の頬を、両手で包むように抱えた。 泣いてしまうんじゃないかと思うくらい、加賀谷さんの瞳は潤んでいた。 「ごめんな、晴之。そういう約束はできないよ」 「どうして……いつかは別れるからですか」 「えっと、なんて言えばいいかな」 加賀谷さんは私の横に寝そべった。背が高い私と顔が同じ位置になるように、枕元までずり上がった。 「晴之は、俺がいなくなったらどう思う?」 「いなくなるって死んじゃうってことですか」 「ああ、まあ……そういうことだ」 加賀谷さんは目を伏せた。 「さみしくなって寝られなくなります」 「眠れないのは困るなあ」 静かな声で呟いて、加賀谷さんは私の髪を梳いた。私は頭をすり寄せて彼の手に頭を押しつけた。 頭を撫でられるのは好きだ。あの人もこうして私を慰めてくれた。 加賀谷さんは私が触れてほしいと思ったときに、必ず手を伸ばしてくれる。口では言わないのにしっかりと伝わる。 この手が遠くにいったら、もう誰も私を癒してくれない。 「晴之は甘えん坊さんだな。全然すれてないな」 私は首を振った。 私だってあなたを見てふしだらなことも考える。さっきだって、あなたのことを思って自分の躯を弄っていた。 「こういうときって、俺とおまえは永遠の愛で結ばれているぞって言えたらかっこいいんだろうな」 「いいんです。そうですよね……ずっといっしょなんてありえないですよね」 加賀谷さん、と言って私は彼に抱きついた。 「お願いです。早くしましょう。加賀谷さんとひとつになりたいです」 私のことを真剣に思ってくれるから、加賀谷さんは約束できないんだ。死に別れたときにお互いつらくなるから、あえて現実的なことを言ったのだろう。 まじめすぎる。これからいっしょになるのだから、熱い約束を交わしてほしかった。 心地よい夢のまま、夜を迎えられたのに。 「ねえ、加賀谷さん。早くしないと夜が明けてしまいますよ」 いまはただ、彼に溺れて翻弄されたい。 「それじゃあしようか、晴之」 頷く前に加賀谷さんは私の唇を奪った。 このくちづけは、これからもっと熱いことをするための始まりのキスなんだ。そう意識するだけで息が乱れた。 加賀谷さんは唇を舐めながら、私の肌を撫でた。 「晴之も、俺の躯を撫でてごらん。遠慮しないで好きなところを触ってみるんだ」 恐る恐る、彼の頬に手を伸ばした。 人肌って、こんなにしっとりとしていて手に吸いつくものなのか。 「晴之。しがみついていたら何もできないじゃないか」 「しばらくこうしたいです。うれしくて、うれしくて、どうにかなってしまいそうです」 加賀谷さんの背中に腕を回して私は首を振った。 「困った子だな」 首筋に歯を立てられた。突然のことに私は声を上げた。 仕返しとばかりに、顔を上げた加賀谷さんの首筋に舌を這わせた。彼の胸に唇を寄せていると自分の胸の突起を撫でられた。 「そうやって積極的になれよ。もっと気持ちよくなるから」 「加賀谷さん……好きです」 キスをしたら、加賀谷さんは私の顔を覗き込んだ。 「名前で呼ばないのか。ひとりでしているときみたいに」 「え、なんで知っているんですか!?」 一瞬で熱が引いた。 「風呂場で俺の名前を呼びながらあそこを弄っているだろ。ドアを開けても気づかないくらい、感じまくっていたよな」

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