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第20話 高田の想い
午後からバイトが出勤してきた。彼と店長に仕事を任せ、私は高田さんと食堂へ向かった。
三階にあるフードコートは、あまり混んではいなかった。もうすぐで午後二時、ランチタイムのピークは過ぎている。私たちはいつものように日替わり定食を頼んだ。
番号札を取り、窓側の席についた。ここに座ると、離陸する飛行機が見える。ちょうど高田さんの背後で、音を立てて青い機体が飛び立った。
高田さんは顎を撫でながら呟いた。
「なんか午後になると髭が伸びているような気がするんだよな」
気のせいですよ、と私は答えた。高田さんは毛深いからそう思ってしまうのだろう。
程なくして、私たちの番号が呼ばれた。料理を取りに行き、席に座る。箸を割りながら、高田さんが話しかけてきた。
「三浦。今夜、夕食もいっしょに食べないか」
「すみません、今日も用事があります」
「また、加賀谷か」
「ええ。加賀谷さんの家でご飯を食べます」
「それだけ?」
「他に、何があるんですか」
「聞いてみただけだ。そんな泣きそうな顔するなよ」
私は目を伏せた。高田さんの視線を感じる。高田さんは妙に勘が鋭いから、怖いときがある。
もしかしたら、私と加賀谷さんの関係に気づいているのかもしれない。
彼が味噌汁に口をつけた隙に、顔を上げた。いつもと同じように見える。何も察知できない。こういうとき、場数を踏んでいたらわかるものなのだろうか。
経験がないというのは、何においても不利だ。
「仲がいいよな、おまえたちは。嫉妬してしまうよ」
「ああ。私が高田さんから、加賀谷さんを取ったみたいですよね」
「違うな。逆」
「え?」
聞き返したら、高田さんはご飯をほおばった。彼が飲み込むまで、私は待った。
「俺のかわいい三浦を、加賀谷に取られた」
掴んでいた湯飲みを落としそうになった。
どこまで知っているんだ。探ってるだけなのか。
高田さんは茶碗を置くと、店内を見渡した。
「おまえが仕事に就いた頃だから、二、三年前だっけ。ここで加賀谷を紹介したんだよな」
私は頷いた。
「あのときも、私たちはこの席で食事していたんですよね」
確か、就職して一ヶ月ほど経ったときのことだった。
ふたりで昼食を取っていると、背の低い警備員――加賀谷さんに声をかけられた。彼は遠くのテーブルにいたが、自分のトレイを持って高田さんの隣に座った。
高校のクラスメイトだと言って、高田さんが加賀谷さんを紹介してくれた。
警備員と話すのは初めてのことだった。彼らは仕事になると、集団でスタッフルームを出て空港内を歩く。厳しい顔で足早に歩くから、頭の固そうな集団に見えた。
目の前に座っている加賀谷さんは、全く違う感じがした。
私と目が合うといつも微笑んだ。
笑った顔があまりにも幼くて、自分よりも年下に見えた。
「あのとき、俺が加賀谷のことをなんて言ったか覚えてるか」
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