25 / 34
第25話 俺のものになれ、晴之
「笑わないでください。変わるのがいやなんです。加賀谷さんにも変わってほしくない」
俯いて私は話した。
「大人の世界には憧れています。でも、いまみたいなやさしい加賀谷さんでいてほしいです」
「安心しろ、晴之」
息を整えてから、加賀谷さんは思い切り私を抱きしめた。
「ひとつになったら、俺たちはもっとあったかくなれるんだ」
「本当に?」
「ああ、すごく相手が愛しくなるよ」
「……どんな風になっちゃうんだろう」
いまだって、あふれそうなほどの思いを持て余している。更に深い愛情が持てるなんて知らなかった。
「すごく気になるだろ、晴之」
「うん」
私は力強く頷いた。
「いっしょになったら、もっと加賀谷さんのことが好きになれるんですよね! 考えただけで、どきどきしてきます!」
湧き上がってくる昂ぶりを抑えたくて、私は何度も胸をさすった。その手を、加賀谷さんがしっかりと握る。
加賀谷さんの手は、私の手よりも、ずっとずっと熱かった。
「抱かれているときに不安になったら、こうやって抱っこしてやる。だから……」
「……ん、ん……」
突然の熱いくちづけに息が乱れた。加賀谷さんの指先が私の背中を滑る。辿った跡が痺れるように疼くので、私は身悶えした。
強く、腰を引き寄せられる。漆黒の潤んだ瞳に見つめられた。
「俺のものになれ、晴之」
「はい、あなたのものになります」
加賀谷さんの背に腕を回して、私は息を吐いた。もう、身体は震えていなかった。
ほのかに燈るろうそくの灯りのような温かい心があふれてくる。こんな気持ち、さっきまでなかった。
これが、加賀谷さんが私にくれた愛情なんだ。
こんなに心地よい思いを与えくれるんだから、思うがままに私を抱くことはないだろう。包み込んでくれるような愛を私に送ってくれるはずだ。
「あのさ、先に言っておくけど、俺だって十回に一回は、獣のようになるからな」
「え!」
「そのときは、いつもより愛情たっぷりのアフターケアをするよ」
「うん、ありがとう」
いつか泣きながら抱かれる日がくるかもしれない。それでもいい。
淫らで荒々しくなっても、加賀谷さんには変わらない。
いまここにいる頼もしい男といっしょなんだ。
甘えるように、私は加賀谷さんの頬に自分の頬を擦りつけた。加賀谷さんは私の背中をゆっくりと叩いていた。
ふと、その手が止まった。
「晴之。ふたりでお風呂に入らないか」
「いいんですか」
「ああ、いっしょに入るのが俺の夢だったんだ」
加賀谷さんは立ち上がると、力強く私を引っ張った。
ともだちにシェアしよう!