32 / 34
第32話 ひとつになれた
「晴之、晴之……」
目を開けると私は浴室にいた。腰にはタオルが巻かれている。
加賀谷さんは、横抱きにした私を両腿に乗せて座っている。
私の名前を繰り返し呼びながら、全身に唇を落としている。
息をするのがやっとだった。くちづけされても意識がはっきりしてこない。
「……終わったんですか……」
私の声は枯れていた。
「ああ。ちゃんとできたんだよ」
潤んだ瞳で私を見つめている。私の手をひたすら撫でてくれた。
「がんばった。晴之は、すごくがんばったよ」
「よかった……今度はできたんだ」
涙が頬を伝った。
加賀谷さんは頷き、すすり泣く私の頭を撫でてくれた。
泣くのをやめたいのに、涙があふれてくる。
見つめ返しているうちに、焦げつくような狂おしい記憶がよみがえってきた。熱っぽい彼のまなざし、荒々しい声を思い出した。
加賀谷さんに愛された。この肌で、心で、加賀谷さんを感じた。
「怖かったけど、できたんだ。か……」
私は、息を整えた。寿さん、と言った。
「寿さん、愛してる」
「やっと、名前で呼んでくれた」
微笑みながら彼は私の唇を奪った。抱きつこうとしたら、腰に鈍い痛みを感じた。
抱かれたという確かな感触だった。
ともだちにシェアしよう!