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最終話 懐かしい光

「晴之が誉めてくれたら、俺はもっとがんばれるからさ」 おかしくて笑っていると、愛しさで心が満たされていく。 抱かれたから、新しい加賀谷さんの魅力を見つけられた。 「えっと……お疲れ様でした。気持ちよかったです」 加賀谷さんの中心に向かってささやいた。ねぎらうようにそっと撫でた。 私の中を勇ましく動いていたそこは、おとなしくなっていた。これが自分の中を擦り上げたのだと思うと恥ずかしくなる。 「そうか、気持ちよかったか。そうか……あはは」 加賀谷さんは私の背中を叩きながら、天井を見上げた。 私がうまくできるかと怯えていたように、加賀谷さんも私を愉しませられるか不安だったに違いない。 加賀谷さんの胸に、私は頬をすり寄せた。今朝よりも、彼の汗は甘い匂いがする。 「ねえ、加賀谷さん。これからも私を子供扱いしてくれますか。いい子って言われるのが、好きになったんです」 幼子のように話しかけてくるのは、愛されている証だとやっとわかった。 私はまだ、本当の大人にはなれない。 「ああ……やっぱり、晴之はかわいいこと言うなあ」 加賀谷さんは笑い声を上げた。吐息が頬に当たってくすぐったい。 「晴之。ずっといい子でいろよ。俺が護るから」 洗い立ての私の髪を、加賀谷さんは何度も梳いた。 「……あのさ、俺にお兄さんのことを話してくれないか。晴之の大好きだった人がどんな人か知りたい」 「うん……ありがとう」 加賀谷さんの胸に頬を押しつけた。強い心音が聞こえてくる。 兄のことは高田さんに話した。でもそれは自分からだった。 加賀谷さんは自らの意志で、私の悲しみを分かち合おうとしている。そのことが、たまらなくうれしくかった。 『おまえを抱きしめるのは加賀谷の仕事だ』 高田さんの言葉の意味がようやくわかった。 「兄さんは、すごく背が高かったんです」 「そうなんだ。俺とは違うな」 「でもすごく似ているんですよ。例えば……」 言いかけて顔を上げたとき、加賀谷さんと目が合った。 彼の瞳には、やわらかい光が宿っていた。揺らめく小さな光だった。その光に懐かしさを感じた。加賀谷さんに会うずっと前に見た気がする。 もしかしたら、兄は、こんなまなざしで私を見つめていたのだろうか。 力いっぱい、私は加賀谷さんを抱きしめた。 「晴之、どうした、ん?」 加賀谷さんは両手で私を受け止めた。私の背を撫でながら呟く。 「まだうまく話せないか」 「ううん、大丈夫」 私は息を吐いた。胸の奥から熱いものが込み上げてくる。 「泣いちゃうほどつらいなら話してごらん。みんな受け止めるから」 微笑みながら加賀谷さんは私の涙を拭った。 「いえ、そうじゃないんです」 悲しくて泣いているのではなかった。 もらうばかりだった愛情を、やっと加賀谷さんに返すことができた。幼すぎたから、兄には私の思いを渡すことはできなかった。 でも加賀谷さんには、これから先、たくさん与えることができる。 そう思うと涙があふれてきた。 「よかった、加賀谷さんに抱かれて……」 加賀谷さんは頷くと、私の髪を梳かした。 愛撫するかのようなやさしい手つきだった。 【終】

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