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プロローグ
恋人はもっぱら己の右手、というロンリーライフを送っている貝塚 健太郎の元に、青い封筒のダイレクトメールが届いたのは年始早々であった。
なんじゃこりゃ、と思いつつリターンアドレスのところを見てみると、『NYOKKI』と書いてある。ニョッキ、と読むのだろうか?
首を傾げながらとりあえず封を破る。ハサミで上を切るなんてことはせずに、無造作にバリバリと。
すると中にはチラシが入っていた。
書き出しは『おめでとうございます』。
『おめでとうございます。
あなたは厳正なる抽選の結果、下記ツアーへの参加権を獲得されました。
つきましては以下の手順でお申し込みください』
…………なんだこれは。怪しすぎる。
新手の詐欺か?と眉を顰めながら、貝塚はカラフルなチラシに目を走らせた。
『新春特別企画! ドキドキワクワクのミステリーツアー、おもてなし一泊二日の旅』
ウキウキ10大おもてなし
①バスの座席はおひとりさま2シート使用でゆったり
②バスの中では〇〇体験!
③弊社自慢の〇〇の試着体験!
④おまけに車内では使い放題です!
⑤〇〇を賭けたじゃんけん大会も開催
⑥さらに優勝者には〇〇の特典も!
⑦このバスでしか見ることのできない絶景にご案内
⑧〇〇のお試しもできます
⑨ハジメテの方も安心、〇〇講座つき
⑩お土産に〇〇をあげちゃいます!
なんだろう。まったくわからない。
お値段は、一泊二日で十万円。
高い。
ちょっと高すぎやしないか。
そんなにいいお宿に連れて行ってくれるというのか。
いや、どんな高級旅館でも、十万円は高い。
チラシの裏を見てみると、申込先や申込方法が載っていた。
流し読みをしていると、申込には健康診断が必要、と書いてあって驚愕する。なぜだ。なぜ旅行に行くのに健康診断を受けなければならないのだ。海の底にでも連れていかれるのか。
しかも病院指定ときた。
家からさほどの距離がないところなので、行けなくはないが……やはり怪しすぎる。
しかもチラシの最後に、『NYOKKIツーリズムの理念』とあって、それがまたふざけていた。
『N……にっぽんの
Y……良いトコロを
O……おもてなしの心で。
K……興奮と
K……好奇心を満たす旅に
I……イッてドピュ~』
……イッてドピュ~とはなんだ。
胡散臭さ満開すぎる。
どこをとっても怪しすぎて逆に興味をそそられた貝塚は、ネットで検索をしてみた。
すると、NYOKKIツーリズム、というサイトがヒットした。
しかし、具体的なツアーの内容がない。
いったいなんなんだ、と訝りながらホームページ内を彷徨っていると、口コミへのリンクを発見した。
興味半分でクリックしてみると、ツアー参加者の声、というタイトルの下に、書き込みがたくさんあった。
そのどれもが、星五つ。
しかも、『最高』『もう一回行きたい』『倍額でも出す』『一度行くと病みつき』などなど、煽るような言葉が飛び交っており、サクラの仕業ではないかと貝塚は疑った。
なぜならここにもやはり具体的な内容が入っていないからである。
だがしかし、よく読んでみると、ツアーの内容上ネタバレとなる書き込みは禁止されているとのことだった。
なるほど……。
いやでも待てよ。怪しいことには変わりない。
そう思いつつ貝塚は画面をスクロールして、口コミのほとんどを読んだ。
その中で一番多かったのは、以下の言葉である。
『バスガイドさん、最高!!!!!!』
ものすごい熱量をもって綴られたであろうその一文に、貝塚のこころは激しく揺さぶられた。
気づけば貝塚の指は、申込、というボタンをタップしていたのであった……。
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